"何もしない姑の居場所" 第3話
「分かった。言う」
リナは信じていなかった。
俊也はいつもそう言う。
でも、結局言わない。
母親にく言えない。
それが俊也のさだった。
翌、リナが仕事から帰ると、玄関に見慣れないスーツケースがあった。きなスーツケース。その横には段ボール箱が2つ。
「お帰り、リナ」
俊也の声がした。珍しくく帰宅している。
「これ、何?」
「ああ、帆が帰ってきた」
リナは固まった。
「帆が? どうして?」
「仕事、辞めたって」
リナは目を閉じた。
また、という言葉が喉までかかった。
帆は25歳。学卒業、広告代理に就職したが、半で辞めた。理由は「パワハラがひどい」。次はウェブデザイン会社。3ヶで辞めた。理由は「司とわない」。3社目は事務職。1ヶで辞めた。「つまらない」と言った。
そして4社目。
「今度は何?」
「疲れたって」
「疲れた? まだ2ヶよ」
「分かってる。でも、しばらく休ませてやろう」
リナはバッグをに置いた。
「あなたはいつもそう言うのね。お義母さんにも“しばらく”って言った。5に。で、今もまだいる。帆も“しばらく休ませる”って、いつまで?」
俊也は答えられなかった。
リナは帆の部のドアをノックした。
「帆、入るわよ」
返事はなかった。リナはドアをけた。
部のは、すでに散らかっていた。にはが散乱し、ベッドのにはけたばかりのスーツケースがある。帆はゲーミングチェアに座り、きなモニターに向かっていた。
広告
ヘッドフォンをつけ、ゲームにだった。
「帆」
リナが声をかけると、帆はヘッドフォンをした。
「お帰り」
「ただいま。仕事、辞めたんだって?」
「うん」
「どうして?」
「疲れた」
「疲れたって、まだ始まったばかりじゃない」
帆の目がたくなった。
「お母さんに何が分かるの?」
「分からないから聞いてるのよ」
「分からないなら聞かないで」
リナの声がきくなった。
「帆」
「何? るの?」
「ってるんじゃない。配してるの」
「配? 嘘」
「嘘じゃないわ」
「お母さんはいつも仕事のことばかり。私のことなんて見てない」
リナは言葉に詰まった。
確かに、最は娘との会話が減っていた。仕事が忙しく、絹の世話で疲れ、に帰れば台所につだけで精杯だった。
「今回こそ、ちゃんと続けるってってたの」
帆はさく言った。
「でも無理だった。朝起きられない。会社にきたくない。毎そうってた」
リナは娘の顔を見た。帆は泣いていた。
「お母さんは毎頑張ってる。それは分かってる。でも私は無理。お母さんみたいにくない」
リナは何も言えず、部をた。
リビングに戻ると、絹がいつものソファに座っていた。
「帆、帰ってきたのね」
「ええ。仕事を辞めたんですって。お義母さんもってるんですね」
「俊也から聞いたわ。若い子は変よね、今の代」
絹はテレビを見たまま言った。
広告
「私の代は、辞めるなんて考えられなかった。するしかなかったから」
リナは何も答えなかった。
このは何も分かっていない。
帆が苦しんでいることも。
リナが疲れ切っていることも。
その夜、4で夕を囲んだ。リナが作った肉じゃが、噌汁、サラダ。
「いただきます」
元気に言ったのは絹だけだった。
俊也が帆に聞いた。
「次の仕事、どうするんだ?」
「分からない」
「分からないって、考えてないのか?」
「今は休みたい」
「休むのはいいけど、いつまで?」
帆は箸を置いた。
「部に戻る」
リナが声をかけた。
「まだべ終わってないでしょう」
「お腹いっぱい」
帆はちがり、自分の部へ戻った。
テーブルには3が残された。
「難しい頃ね」
絹が言った。
リナは何も答えなかった。
その夜、リナは喉が渇いて目を覚ました。
計を見ると夜だった。台所へ向かう途、リビングからかりが漏れているのに気づいた。
リナはを止め、そっと覗いた。
そこには絹と帆がいた。
2ともソファに座っている。テレビはついていない。ただ並んで座り、さな声で話していた。
リナは驚いた。
帆は誰とも話したがらなかった。リナとも、俊也とも。けれど絹とは話している。
何を話しているのか、リナには聞き取れなかった。彼女はをみ、自分の部へ戻った。布団に入っても眠れなかった。
翌朝、リナが起きると、リビングから声が聞こえた。珍しい。いつもなら、帆は昼くまで寝ている。
広告
おすすめ作品
-
完結第10話
消えなかった500円
昭和42年、町工場で働く佐々木正雄は、給料日のたびに茶色い封筒から500円だけを抜いていた。 家計を預かる妻・春江にとって、その500円は決して小さな額ではなかった。米代、学校の集金、娘の靴、毎日の食卓。10円、20円を切り詰めて暮らす中で、夫が理由も言わずに毎月同じ金額を消していくことが、春江にはどうしても許せなかった。 酒なのか、競馬なのか。それとも、妻には言えない誰かのためなのか。 問い詰めても、正雄はただ「俺の小遣いだ」としか答えない。夫婦の間に小さな疑いを残したまま、500円の謎は長い年月の中へ埋もれていった。 やがて時代は流れ、娘たちは巣立ち、正雄もこの世を去る。 遺品整理の途中、春江は押し入れの奥から一冊の古い大学ノートを見つける。そこに残されていたのは、昭和42年から何年も続く「500円」の記録だった。 夫が最後まで語らなかった、その金の行き先とは。 20年以上たって初めて明かされる、不器用な父の小さな秘密。人生逆転|親子関係1.5萬字5 3981 -
完結第13話
福嫁の逆転茶屋
江戸の日本橋にある茶屋「泡雪屋」の若旦那・宗介は、店の立て直しのため、評判の商人・泉屋五兵衛の娘を妻に迎えることになる。 宗介が望んでいたのは、江戸でも噂になるほど美しい姉・お花だった。美しい女将がいれば、傾きかけた店にも客が戻る。そう信じていたからだ。 しかし、五兵衛が宗介に差し出したのは、お花ではなく、ふくよかで目立たない妹・福だった。 祝言の日、客たちは陰で笑い、宗介自身も心のどこかで落胆を隠せなかった。だが、福が作る菓子と入れる茶は、少しずつ泡雪屋の空気を変えていく。 派手ではないのに忘れられない味。人の心の奥にしまわれた記憶を呼び起こす菓子。福は、宗介が見落としていた“商いで本当に大切なもの”を静かに見せていく。 やがて泡雪屋は、思いがけない形で評判を取り戻していく。 なぜ、泉屋五兵衛は美しい姉ではなく、福を宗介に嫁がせたのか。 そして若旦那が、かつて落胆した嫁に深く頭を下げることになった理由とは――。嫁姑|夫婦1.9萬字5 94 -
完結第11話
ママ卒業の代償
7歳の孫・ひなが、突然学校へ行けなくなった。 息子夫婦から頼まれ、しばらく預かることになった私は、玄関に立つひなの姿を見て言葉を失う。昔はよく笑い、庭を走り回っていたあの子が、まるで感情をなくしたように無表情になっていたのだ。 声をかけても返事はなく、夜中には眠りながら何度も「ママ、ごめんなさい」と繰り返す。学校で何かあったのだと思っていた私たち夫婦は、ひなを責めず、ただ安心できる場所を作ろうとした。 少しずつ笑顔を取り戻していくひな。そんなある日、一緒にクリスマスケーキを作っていると、彼女は涙を浮かべてこう言った。 「助けて。私を、この家の子供にして」 その一言で、私たちは本当の異変に気づき始める。 ひなが怖がっていたのは、学校ではなかった。そして、母親がネット上で見せていた“理想の母親像”には、誰も知らない大きな嘘が隠されていた。 それから16年後。 パティシエになったひなのもとへ、1本の電話がかかってくる。そこから明かされたのは、あの日すべてを捨てて“ママを卒業した”女の、その後の姿だった。祖父母と孫|親子関係1.7萬字5 621 -
完結第10話
形見を捨てた嫁の代償
妻の三回忌の日、68歳の竹内正男は、久しぶりに帰ってくる息子一家のため、亡き妻がよく作っていた煮物と甘い卵焼きを用意していた。 孫に妻の思い出を伝えようと、正男は40年間大切に使われてきた花柄のエプロンを見せる。それは妻が家族のために台所に立ち続けた証であり、正男にとって何より大切な形見だった。 しかし嫁の彩花は、そのエプロンを何のためらいもなくゴミ袋へ放り込む。 「古いものは整理した方がいいですよ」 その一言で、正男の中の何かが静かに崩れた。 ところがその後、彩花は仏壇の横に置かれた一通の封筒を見つける。そこに書かれていたのは、マンション2棟と預金3000万円、そして遺言書という文字。 次の瞬間、さっきまでゴミ扱いしていた形見を、嫁は突然「大切にします」と言い出した。 形見の本当の価値は、金で測れるものなのか。 亡き妻が残したエプロンをめぐり、家族の本音が静かに暴かれていく。親不孝|親子関係1.5萬字5 2038 -
完結第12話
義母ATM、ハワイへ消ゆ
67歳のみち子は、息子夫婦と孫たちを迎えるため、今年も静かに正月の準備を始めていた。 ところがクリスマスの朝、嫁の歩美から突然告げられる。 「今年は15人で行きますから」 食事、寝具、お年玉、観光費まで、すべて義母であるみち子が用意する前提。さらに歩美は、SNSでみち子を「ATMみたい」と笑い、長年の援助まで馬鹿にしていた。 37年間働き、息子夫婦に2500万円以上を援助してきたみち子は、その日ようやく気づく。 自分は家族に大切にされていたのではない。都合よく使われていただけだったのだ。 そして12月29日。 15人が玄関前に集まった時、家の鍵は開かなかった。 その頃みち子夫婦は、すでに日本にはいなかった――。ATM扱い|親子関係1.8萬字5 9763 -
完結第12話
タダ宿の代償
64歳の佐々木敦子のもとに、久しぶりに長男・大輔から電話がかかってきた。 連休に家族で帰ってくるという話に、最初は孫に会える喜びを感じた敦子。だが大輔は、当然のようにこう言った。 「母さんの家に泊まるから。ホテル代もかからないし」 しかも泊まりに来るのは、息子一家だけではなかった。嫁の両親、妹夫婦、友人夫婦まで含めた総勢10人。食事、布団、タオル、駐車場、留守番まで、敦子の家はいつの間にか“無料の宿”として扱われていた。 それでも家族のためならと我慢しかけた敦子だったが、旅行の三日前、切れていなかった電話の向こうから、息子夫婦の本音を聞いてしまう。 「母さんの家使えばタダじゃん」 「お母さんってちょろいよね」 その瞬間、敦子の中で何かが静かに切れた。 この家は、3500万円を出して自分が買った家。誰かが当然のように使っていい場所ではない。 翌日、敦子は弁護士へ相談し、玄関の鍵を替える。 そして連休当日。何も知らずに10人で家の前へやって来た息子夫婦を待っていたのは、もう開かない玄関だった――。親不孝|親子関係1.9萬字5 5472 -
完結第14話
身代わり妻の逆転帰還
夫の代わりに罪を被り、2年間刑務所で耐え続けた佐藤由美。 亡き父が残した会社を守るため、そして夫・健一を信じるために、彼女はすべてを背負った。だが出所の日、ようやく帰った家で待っていたのは、姑の平手打ちと、夫から投げつけられた離婚届、そして若い愛人の勝ち誇った笑みだった。 「前科者のくせに、まだうちの息子と暮らす気なの?」 すべてを失ったように見えた由美は、泣き崩れることなく、ただ一本の電話をかける。 刑務所で出会った一人の女性。亡き父が残していた最後の言葉。仏壇の下に隠されたUSBメモリ。 2年前の事件は、本当に由美の罪だったのか。 翌日から、夫と愛人、そして由美を切り捨てた家族の嘘が、静かに崩れ始める――。嫁姑|夫婦2.1萬字5 501 -
完結第12話
午前3時の離婚届
午前3時17分。夫・俊介は帰ってこなかった。 その夜、日本へ戻ってきていたのは、夫の“初恋の女性”だと思っていた田中雪。彼女のSNSには、高層ホテルの夜景、二つのワイングラス、そして私が夫に贈ったはずの腕時計が写っていた。 3年間、木村家の嫁として髪も服も仕事も変え、良い妻になろうとしてきた私。けれど夫が本当に優しくしていた相手は、私ではなかったのかもしれない。 そう思った朝、私は義母に離婚届を差し出し、1億2000万円を受け取って家を出た。 だが数日後、夫は離婚届を握りしめ、泣きながら私を捜し始める。 初恋の女性、隠された写真、失くしたはずのブレスレット。 私たちの結婚は、本当に嘘から始まっていたのか――。嫁姑|不倫1.8萬字5 565 -
完結第11話
保険金つき同居
夫を亡くし、一人暮らしを続けていた70歳の渡辺みよ子。 息子夫婦から「もう一人で頑張らなくていい」と言われ、長年暮らした家を売り、その1500万円を新居の購入資金に充てて同居を始めた。 最初は、家族に囲まれた穏やかな老後が始まるはずだった。 しかし2ヶ月も経たないうちに、生活費の負担、食事の制限、通帳の管理要求……みよ子の居場所は少しずつ奪われていく。 そんなある日、ゴミの中から見つけたのは、自分を被保険者にした生命保険の書類だった。 そして深夜1時。 二階の寝室から聞こえてきた息子夫婦の会話で、みよ子はすべてを知る。 家族だと思っていた人たちは、いつから自分の老後ではなく、自分の財産を見ていたのか。 震える手で録音ボタンを押したその夜から、70歳の母の静かな反撃が始まった。人生逆転|親子関係1.7萬字5 957 -
完結第13話
冷えた雑煮の逆転正月
元日の夜、シンガポール出張から1日早く帰国した佐藤健一は、実家の食卓に妻・弓の席だけがないことに気づく。 暖かい居間では、母と弟が豪華なおせちを囲んで笑っていた。だが弓は、冷え切った台所の隅で、たった1人、冷たい雑煮をすすっていた。 15年間、夫の不在中に何が起きていたのか。 赤切れた手、擦り切れたカーディガン、使わせてもらえないお湯。そして、父が遺したはずの3000万円の預金に残されていた、不可解な出金記録。 健一は怒りを飲み込み、その場では何も言わなかった。 翌朝、妻を呼び出した彼は、ついに決断する。 だが金庫を開けた時、そこにあったのは消えた遺産だけではなかった。弓の名前が書かれた、覚えのない離婚届。そして母と弟が隠していた、さらに深い裏切りの証拠。 元日の冷たい台所から始まった夫婦の反撃は、やがて家族の嘘を一つずつ暴いていく――。嫁姑|夫婦1.9萬字5 3691