"何もしない姑の居場所" 第2話
リビングからテレビの音だけが聞こえる。リナはさくため息をついた。今だけで何度目のため息なのか、もう数えるのも嫌だった。
彼女はバッグをに置き、玄関のゴミ袋を見た。
まだそこにある。
何も言わずにコートを脱ぎ、台所へ向かった。シンクには昼の器が置かれていた。カレーの皿、ご飯茶碗、スプーン。
「洗っておいてくださいってお願いしたのに」
リナは声で呟いた。絹に聞こえないように。
聞こえたら、絹は「忙しくて忘れてた」と言うだろう。
忙しい。
1テレビを見て、お菓子をべて、ソファで昼寝をしていたが。
けれどリナは、もう文句を言わなかった。言っても無駄だと分かっているからだ。
リナは器を洗い始めた。の音が台所に響く。
「お帰り」
リビングから絹の声がした。
「はい。ただいま」
リナは作り笑いで答えた。
「お腹空いてない? 何かべる?」
「丈夫です。自分で用します」
「そう」
絹はまたテレビへ線を戻した。
リナは蔵庫をけた。昨夜作ったカレーを探す。けれど、タッパーがない。
「あれ……」
あれだけあったカレーが消えている。
「お義母さん、カレーべましたか?」
「ああ、お昼に。美しかったわよ」
リナは目を閉じ、く息を吸った。
「全部ですか?」
「全部。お腹空いてたから」
絹は悪びれる様子もない。
リナは蔵庫を閉めた。
広告
「コンビニってきます」
「私もアイス買ってきて。バニラの」
リナは答えず、コートを着た。
「リナさん、聞こえてる?」
「はい」
リナは玄関をた。エレベーターを待ちながら、涙がそうになった。けれど泣かなかった。泣いたら、もう止まらない気がした。
11の夕方はがい。はすでに暗かった。
リナは歩きながら、自分のを考えた。
34歳。結婚して10。子どもはいない。夫婦で「まだい」と決めた。けれど、その“まだ”は、いつまで続くのか。
仕事はIT企業のプロジェクトマネージャー。収入は悪くないが、ストレスはい。クライアントの無理な求、司の圧力、部のミス。
そしてに帰れば、絹がいる。
5、絹は「しばらくお世話になるわ」と言って転がり込んできた。
しばらく。
それが、もう5だった。
最初の1はできた。姑だから。夫の母親だから。
でも2目から限界が見え始めた。
絹は何もしない。
料理も、掃除も、洗濯も、全部リナがやる。俊也は「寄りだから、できないんだよ」と言う。けれど絹は元気だ。毎テレビを見て、お菓子をべて、笑っている。
それができるなら、器くらい洗えるはずだった。
コンビニでリナは唐揚げ弁当とサラダを取った。途、アイスのコーナーが目に入った。バニラアイス。絹に頼まれたものだ。
買うか、買わないか。
リナはしち止まり、結局、買わずにレジへ向かった。
広告
帰宅すると、絹はまだリビングでテレビを見ていた。
「あら、お帰り」
「アイスは買ってません」
リナはたく答えた。
「ええ、頼んだのに」
「すみません。忘れました」
リナはそのまま自分の部へ弁当を持っていった。リビングでべたくなかった。絹と同じ空にいたくなかった。
午8、俊也が帰ってきた。
「ただいま」
「お帰りなさい」
絹は嬉しそうにちがった。
「俊也、お腹空いてるでしょう。ご飯温めてあげるわね」
リナは自分の部で、その会話を聞いていた。
温めるだけ。
それでも、絹は息子のためならく。
リナのためにはかない。
それが現実だった。
夜10、寝でリナと俊也は並んで布団に入った。
「今も疲れたな」
俊也が呟く。
リナは何も言わなかった。
「リナ、どうした?」
「別に」
「嘘だろ。何かあったんだろ」
リナは井を見つめたまま言った。
「お義母さんのこと」
俊也の声がし嫌になった。
「また?」
「またじゃないわよ。毎のことよ」
リナは夫の方を見た。
「お義母さん、元気よ。毎テレビ見て、お菓子べて笑ってる。それができるなら器くらい洗えるでしょう」
俊也は言葉に詰まった。
リナは今のカレーのことを話した。3分作ったはずのカレーを全部べられ、結局、自分はコンビニ弁当をべたことも。
俊也はさく謝った。
「ごめん」
「謝らないで。あなたが悪いんじゃない。
でも、あなたは何もしてくれない」
リナの声が震えた。
「せめて、自分の器くらい洗ってって、お義母さんにちゃんと言ってよ」
広告
おすすめ作品
-
完結第27話
中卒の兄、結婚式で覚醒す
弟が名医として結婚式を挙げた日。 学歴至上の親戚たちは、医者の弟を持ちながら中卒でトラック運転手の俺を見下し、笑いものにした。 「こんな底辺な兄がいるなんて、恥ずかしいわw」 「せっかく医者になったのに、身内が足を引っ張る」 義父である大病院の院長まで、俺を蔑み、権力で圧しつけてくる。 誰もが俺を惨めな負け組だと決めつけたその瞬間―― ずっと黙っていた弟が、冷めた声で義父に告げた。 「院長。あなたはまだ、兄の正体に気づかないんですか?」 たった一言で、豪華な結婚式会場は一瞬で凍りついた。 彼らが馬鹿にした中卒の底辺兄。 実は、年商数百億の企業社長で、弟の夢を全部支えてきた男だった。 続々と入る国税局捜査、崩壊する権力、覆される階級。 学歴と肩書きだけで人を見下すエリートたちの顔面が、地に落ちる―― 最強兄の無双逆転、最後まで必見!因果応報|人生逆転|怒り|兄弟姉妹|親子関係4.1萬字5 95 -
完結第21話
父の残した翼
結婚 1 週間後、夫は毎晩汗だくで私の母の部屋から出てくる。 あまりに不自然な様子に不安を抱いた私は、部屋に隠しカメラを仕掛けた。 録画映像を再生した瞬間、私は衝撃でその場に膝から崩れ落ちた…… 夫の優しい仮面の裏に隠された、金欲と脅迫の悪夢が、全て記録されていた。兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|親子関係3.2萬字5 195 -
完結第6話
他人と言われた娘
5歳の娘・マリが、義実家のクリスマスパーティーで泣きながら尋ねた。 「おばあちゃん、マリのは?」 長男嫁の子どもたちにはプレゼントを渡した姑。けれどマリにだけは、冷たい言葉を浴びせた。 「低学歴の嫁から生まれた子なんて、うちの孫じゃない」 施設で育ち、大学には行けなかった美優。結婚当初から姑に見下され続けても、夫の母だからと我慢してきた。しかも美優は、姑が知らないところで、何年も仕送りを続けていた。 しかし、娘まで“他人”扱いされた瞬間、美優の中で何かが切れる。 「分かりました。今後は他人として接します」 翌月、姑は初めて知ることになる。 自分の生活を支えていた仕送りが、誰から届いていたのかを。 そして、他人だと笑った相手に頼っていた姑の暮らしは、静かに崩れ始める――。嫁姑|親子関係9.2千字5 6 -
完結第10話
母が家を消した日
75歳の高橋幸は、お盆の夜、廊下の向こうから聞こえてきた家族の会話に足を止めた。 「おばあちゃんが施設に行ったら、この家、私たちのものになるの?」 息子夫婦は、幸を介護施設へ入れ、そのマンションを売って自分たちのローンや教育費に充てる計画を立てていた。しかも、その話は一時の思いつきではなく、すでに何か月も前から進められていたものだった。 翌朝、息子と嫁は何事もなかったように優しい顔で接してくる。病院での認知症検査、施設リスト、マンション売却後の資金計画――幸は静かに証拠を集めながら、最後の決断を胸に秘める。 そして、息子一家が海外旅行へ出かけた日。 幸は長年暮らしたマンションを売り、誰にも告げず東京を離れた。 旅行から戻った家族を待っていたのは、もう開かないオートロックと、母が残した一通の手紙だった――。因果応報|絶縁|親子関係1.4萬字5 2 -
完結第23話
鬼母の末路
3年ぶりにドイツから帰国した俺を待っていたのは、温かい食卓ではなかった。 真っ暗な部屋。止まった電気。震える妻。 そして、7歳の娘が笑って差し出したのは、お湯をかけただけの白米だった。 毎月50万円。 家族のために送り続けた金は、どこへ消えたのか。 その夜、俺は知ることになる。 家族を地獄に落としていたのは、他人ではなく――俺の実の母だった。怒り|祖父母と孫|兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|親子関係3.4萬字5 178 -
完結第27話
偽りの夫婦と奇妙な夜の声
結婚初夜、夫は疲労を理由に私を拒絶した。孤独な夜を過ごし眠りについた私だったが、真夜中、義母の部屋から漏れる不穏なうめき声に目を覚ます。優しそうな夫と上品な姑の裏に隠れた歪な秘密が、一夜の怪音から次々と暴かれる、家庭闇復讐物語。祖父母と孫|兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|親子関係4.2萬字5 212