"消えた子役の日記帳" 第2話
黒監督が、翔太のを引き、具倉庫の方へ向かっていく姿だった。
しかし、そのフィルムは当すぐには確認されなかった。混乱ので、撮された映像の背景にまで注を払う者はいなかった。
夜になっても、翔太は見つからなかった。
子は喉が裂けるほど翔太の名を呼び続けた。
「翔太!返事して!翔太!」
何度も叫ぶうちに、声はかすれ、元はふらついた。それでも子は座り込むことができなかった。座ったら、もう度とちがれない気がした。
黒監督は誰よりもにって、捜索を指揮していた。
「倉庫の裏も探せ!セットのも確認しろ!」
彼はきな声を張りげ、折ハンカチで目を拭った。
「うちの翔太を、必ず見つけるんだ」
その献な姿を見て、現のたちは黒を疑いの対象からしていった。
「監督は本当に翔太くんをがっていた」
「番配しているのは黒監督だ」
そう囁く声が広がった。
だが、夜の12頃、警備員の佐藤は偶然、倉庫の裏でを止めていた。
暗い灯りので、黒監督がだらけの作業着とスコップを慌てて隠していたのだ。
佐藤の目がきく揺れた。
何かを見てはいけないものを見てしまった。そんな覚が、背をたくいがった。
佐藤は息を殺し、そのからずさった。
同じ頃、照部の、徹も気になることをいしていた。
広告
撮直、具倉庫の方から、子どもの泣き声のようなものを聞いた気がしたのだ。
はおずおずと捜査員にづいた。
「あの……倉庫の方から、子どもの声みたいなのを聞いた気がするんです」
しかし、現は発の音やスタッフの号で騒然としていた。
捜査員はメモを取りながらも、く追及しなかった。
「聞き違いの能性もあるな」
その言で、の証言はく扱われた。
黒監督は落ち着いていた。
「私はその、会議で次回の打ちわせをしていました」
助監督や脚本たちは、を揃えてその言葉を裏付けた。
「監督は会議にいました」
「打ちわせをしていました」
アリバイはっているように見えた。
しかし健だけは、何かが噛みわないとじていた。
靴だけが残されていること。
部へた痕跡がないこと。
倉庫の周辺が自然なほど綺麗に拭き取られていたこと。
すべてが、偶然ではないようにえた。
だが、現にいた100あまりのが、巨なのように捜査を遮っていた。
事件から3が過ぎた夜、撮所のはほとんど消えていた。
その夜、黒監督は「倉庫のの補修事」という名目で、夫を密かに呼び入れた。倉庫のの部にセメントが流し込まれた。数かけて固まっていくコンクリートのに、黒監督はしい具棚を置かせた。
広告
そのに何が埋まっているのか、誰にも分からないようにするためだった。
方、健は捜査を続けていた。
具倉庫を含むすべての空が、自然なほど綺麗だった。まるで誰かが事に拭きしたかのように、埃1つ、髪の毛1本残っていなかった。
は内部犯を確信した。
けれど、捜査を指揮する班は、の疑を取りおうとしなかった。
「、黒監督の名を軽々しくすな」
班はい声で言った。
「相は物だ。むやみにをすと、こっちが痛い目に遭うぞ」
は唇を噛んだ。
「しかし、部犯の痕跡はありません」
「証拠がない」
班はそう言い切り、背を向けた。
その頃、徹は突然、証言をひるがえした。
警察が倉庫の音について再確認すると、は青ざめた顔でをげた。
「私の聞き違いだったみたいです。すみません」
声はか細く震えていた。
数、は突然仕事を辞め、方へ姿を消した。
彼が事件直、黒監督から分い封筒を受け取っていたことを、そのは誰もらなかった。
封筒を渡す、黒はい声で言った。
「君が見たものなんて、何もない。を慎みたまえ。族のことも考えるんだぞ」
その言で、はを閉ざすことを決めてしまった。
警備員の佐藤も同じだった。
佐藤は真実を伝えようと警察署へ向かう途、裏で見らぬ男たちに囲まれた。
広告
おすすめ作品
-
完結第11話
ガジュマルの根が暴いた夜
2008年夏、京都郊外の古寺で、台風によって1本のガジュマルの老木が倒れた。 むき出しになった根の下から見つかったのは、大人2人と幼い女の子の人骨。そばには、色褪せたピンクのワンピースと、腐食したビジネスバッグが残されていた。 それは15年前、一夜にして姿を消した北村家3人のものだった。 当時、夫の健二は勤務先の建設会社で、不自然な金の流れに気づいていた。だが警察へ告発しようとした直後、妻と幼い娘もろとも消息を絶つ。 なぜ3人は、寺の木の下に埋められていたのか。 バッグの中に残されたフィルム、少女の服に縫われた小さな梅の花、そして15年間沈黙していた男の証言。 刑事・田中恵美が古い証拠を追うにつれ、慈善家として知られる大物会長の仮面が少しずつ崩れていく。 しかし、ガジュマルの根が暴いた真実は、まだ終わりではなかった。 北村家が消された夜、その奥には、誰も触れてはならないさらに深い闇が隠されていた――。ミステリー|行方不明1.7萬字5 11 -
完結第10話
Night072の夏
2019年7月、大阪。 16歳の高校生・瀬名ほのかは、学校を出たあと家に帰らなかった。普段なら遅くなる時は必ず連絡を入れる娘。だがその夜、何度電話をかけても、返ってくるのは留守番電話だけだった。 捜査が始まる中、親友の証言から、ほのかがSNSで知り合った謎の人物と会う約束をしていたことが分かる。 相手の名は「Night072」。 優しい言葉でほのかの悩みに寄り添い、「君を理解している」と語り続けたその人物は、本名も顔も分からないまま、巧妙に正体を隠していた。 やがて、大和川で発見された黒い袋が、事件を最悪の方向へ動かしていく。 医学知識を持つ人物。消された通信記録。空き家に残された痕跡。そして、画面の向こうで優しく語りかけていた「Night072」の本当の姿。 ほのかはなぜ狙われたのか。 そして、彼女が最後に信じた相手は、何者だったのか――。ミステリー|行方不明1.5萬字5 247 -
完結第12話
井戸に沈んだ制服
1992年10月、宮城県の山あいの村で、68歳の天野越子が突然姿を消した。 越子はその日、いつものように籠に米と果物、庭の菊を入れ、村外れの寺へ向かった。自宅から寺まではわずか600m。何百回も歩いてきた道で、迷うはずなどなかった。 しかし、越子は寺には着いていなかった。 警察犬は自宅から約100m進んだ場所で、彼女の匂いを見失う。財布も通帳も家に残されたまま、争った跡も、倒れた痕跡もない。まるで、その短い道の途中で忽然と消えたかのようだった。 そして7ヶ月後。 村の古井戸から見つかったのは、40年近く前の女子学生服に包まれた、越子のものと思われる一部の骨だった。 なぜ、寺へ向かっただけの老女が消えたのか。 なぜ、古い制服に包まれていたのか。 捜査線上に浮かんだのは、越子の若い頃を知る一人の元教師だった。 彼の家の地下室で警察が見たものは、この村が長年信じてきた“平穏”を根底から壊すものだった――。ミステリー|行方不明1.7萬字5 180 -
完結第13話
嘘を握った右手
2014年、群馬県の山間部で山わさび畑を営む田中健二が突然姿を消した。 宿舎には通帳も現金も残され、畑の給水設備は止まったまま。几帳面だった健二が、何も告げずに山を離れるはずがなかった。 数日後、農業廃棄物の下から見つかったのは、遮光幕に包まれた健二の姿。右手には、最後まで離さなかった数本の髪が握られていた。 地主の女社長、解雇された若い作業員、秘密の携帯電話、108回の通話記録。 山奥の乾燥倉庫で、あの夜いったい何が起きたのか。 嘘と欲望にまみれた不倫関係が、やがて誰にも消せない証拠を地上へ呼び戻していく――。ミステリー|行方不明1.9萬字5 164 -
完結第11話
五人目の白い靴
2003年夏、琵琶湖のほとりでキャンプをしていた伊藤一家4人が、忽然と姿を消した。 車もテントも荷物もそのまま。財布や鍵、子どもの持ち物まで残されていたのに、家族だけがどこにもいない。唯一、テントの中にあったのは、伊藤家のものではない片方だけの白い運動靴だった。 靴の内側には、消えかけた名前。さらに、長い年月を経て判明した血の痕跡。 捜査は難航し、事件は未解決のまま5年が過ぎる。だが、再鑑定によって白い靴が語り始めたのは、伊藤一家だけではない、もう一人の少女の存在だった。 なぜ、その靴は琵琶湖のテントにあったのか。 そして、5年前から誰にも届かなかった少女の名前とは――。ミステリー|行方不明1.7萬字5 200