みかん小説
本棚

"還暦の朝、家を売った母" 第2話

「母さん、ありがとう。社会になったら絶対恩返しするからな!」 あの百万円の目録をにして涙を流した慎太郎の笑顔。子は、その言葉を信じて、これまで歯をいしばって働き続けてきたのだ。

そして、慎太郎が結婚し、「を買いたい」と相談してきたのことだった。 「母さん、世帯宅を建てたいんだ。でも、どうしてもりなくて……」 慎太郎は子のを握り、申し訳なさそうにうつむいた。その姿を見て、子は迷わなかった。夫と過ごした切なだったが、息子の未来のためならと、売却を決して百万円の現を用した。 「の名義は母さんのままでいいよ。緒にめるんだから、それが番の親孝だ」 慎太郎はそう言って、謝の涙を流していた。

、完成した世帯宅の鍵を受け取ったの慎太郎の笑顔は、確かに本物だったはずだった。 階が子の居スペース、階が息子夫婦の空として設計されたそのは、理な同居活の始まりを告げているようにえた。 最初のは、本当に幸せな々だった。朝は階のダイニングで緒に朝をとり、夕族揃って賑やかに卓を囲んだ。休には庭でバーベキューを楽しみ、子の趣であるガーデニングを慎太郎が笑顔で伝ってくれたこともあった。

広告

「母さんの作る肉じゃが、やっぱり最だな」 そう言って、おかわりをする息子の言葉が、子にとって何よりのきがいだった。

しかし、、孫の翔太がまれてから、の空気はしずつ、確実に変わり始めた。 最初は、美からの些細な指摘だった。 「お母さん、翔太のミルクの温度、ちょっとすぎませんか?」 キッチンに子の背に向けて放たれた美の言葉には、まだ慮があった。子も、米ママゆえのからくるものだろうと、優しく受け止めていたつもりだった。 しかし、それが半も経つと、らかな侮蔑へと変わっていった。 「お母さんの料理って、なんか病院みたいで気ないんですよね。塩分もないし、現代じゃないというか」 美は、子が作った煮物をに、箸をつけようともせず言い放った。 「確かに、もうしスパイスとか使ってもいいんじゃない?付けのままじゃさ……」 慎太郎までが美の顔をうかがいながら、子の料理を簡単に否定するようになった。子がかけてにつけ、かつて慎太郎が「最だ」と褒めてくれた付けは、いつのにか過の遺物として片付けられていた。

からは、子の自体を汚物であるかのように扱う言が、常茶飯事となっていった。

広告

あるの午、美に友に招いていたのことだった。階のリビングから楽しそうな笑い声が、階段を通じて階まで響いていた。 子が洗濯物を片付けようと廊、階段のから友の声が聞こえてきた。 「素敵なおね。でも、階のお母さんの部を通ると、なんか独特の匂いがするのよね」 「わかる、老の匂いっていうのかしら?うちのお姑さんもだから仕方ないんだけど、本当に困っちゃう」 美のその返答を聞いた瞬子は階の廊ちすくんだ。胸が激しく脈打ち、息が詰まる。子は音をてないように静かに自へと戻り、鍵を閉めてベッドのでじっと息を潜めるしかなかった。

それ以来、子は必に清潔をがけるようになった。毎を掃除し、消臭剤を置き、洗濯もこまめにった。しかし、美酷な態度は変わらなかった。 リビングで鉢わせた際、美子の装をからまで値踏みするように見つめ、を鳴らした。 「お母さん、そのも何着てるんですか?昭の匂いがしますよ。髪型も、もうしマシにしたらどうですか?緒に歩くこっちのにもなってください」 次から次へと繰りされる言葉の刃によって、子のしずつ、確実に削り取られていった。

そして半子にとって最も残酷な来事が起きた。 夕方、ベランダの洗濯物を取り込もうと、子が階への階段をがりかけたのことだった。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: