"還暦の朝、家を売った母" 第1話
レストランの個に、たい空気が張り詰めていた。 川子は、テーブルのに置かれたさな桐の箱を見つめていた。そのは、かすかに震えている。、病院の受付として働きながら、しずつ貯めたおで買った還暦祝いの返礼品だった。慎太郎には質な万、美には真珠のブローチ、そして歳になる孫の翔太にはのスプーン。族のぶ顔をい浮かべながら、を込めて選んだ品物だった。
しかし、子の目のにある景は、い描いていたものとは程かった。 円卓の座には、美の両親である田健と律子が、が物顔で並んで座っている。運ばれてくる級フレンチのコース料理をに、会話は田の旅の話や級の買い替え、翔太の英才教育の自ばかりだった。子の妹やき夫の姉といった、子側の親族はも呼ばれていなかった。
子はさく息を吸い、隣に座る慎太郎に向かって、声を潜めて尋ねた。 「あの、慎太郎……。叔母さんや、お姉さんたちはどうしたの?」 慎太郎は、子と線をわせようともせず、元のフォークをかした。 「ああ、呼んでないよ。面倒だろう、親戚なんて。それに交通費もかかるしな」 事務な息子の返答に、子は胸の奥がたくなるのをじた。
主賓であるはずの子は、まるで透のように扱われていた。
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折向けられる線は、れみか軽蔑を含んだものばかりだった。 美の母、律子が、わざとらしくワイングラスを回しながら、子に線を向けた。 「そういえば、子さんはまだ病院の受付をなさっているの?」 「はい、、続けております」 子は背筋を伸ばし、努めて穏やかに答えた。 すると、律子はさくで笑った。 「へえ、よく続きますね。私なら退屈でんでしまいますわ」 その言葉に、慎太郎も美も、何も言い返そうとはしなかった。ただ黙って料理をに運ぶ息子の姿を見て、子はしみを通り越し、胸の奥にたい塊が広がるのを覚えた。
メインディッシュが運ばれてきた、子はを決してバッグから桐の箱を取りした。 「あの……みんなに還暦祝いの返礼を用してきたの。慎太郎には万、美さんにはブローチ、しょうちゃんにはの――」 子が箱を差しした、その瞬だった。 ガタ、と激しい音が響いた。慎太郎が子を蹴りばすようにしてちがり、テーブルを激しく叩いた。 「プレゼント持っててけ!」 個の壁に、慎太郎の鳴り声が激しく反響した。周囲の空気が瞬で凍りつく。 「そんなものいらないんだよ!いい加減にしてくれ、もう限界なんだ!」
子は、差ししたのまま直した。慎太郎の顔はりで真っ赤に染まり、激しい息遣いが聞こえてくる。
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「お母さん、もう限界なんです」 美もまた、ややかな線を子に送りながら、慎太郎の言葉に同調するようにくうなずいた。 「私たち、しい活を始めたいんです。お母さんがいると……はっきり言いますね。邪魔なんですよ、邪魔」 慎太郎のから放たれたその言葉は、鋭い刃物となって子のに突き刺さった。 、夫とのいが詰まった実を売却し、千百万円のをして建てた世帯宅。息子族の幸せのために全てを捧げてきた結果が、歳というの節目で「邪魔者」と呼ばれることだったのか。子は何も言えず、ただ目のにちはだかる実の息子の豹変した姿を、信じられないいで見つめることしかできなかった。
レストランからの帰り、タクシーの窓のを流れる灯を眺めながら、子の脳裏にはの記憶が鮮に蘇っていた。 夫が病気で急逝したあの、息子の慎太郎はまだ歳だった。 「お母さん、お父さんはいつ帰ってくるの?」 泣きじゃくるさな慎太郎を抱きしめながら、子はに誓った。この子をのおとなに育てるためなら、どんな苦労もいとわないと。
翌から病院の受付として働き始め、毎朝に起きて弁当を作った。定が過ぎても、残業をんで引き受け、夜遅くまで働き詰めの毎だった。
自分のや化粧品を買う余裕など爪の先ほどもなかったが、慎太郎の学学には、必で貯めた泣けなしの貯から百万円を面した。
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