みかん小説
本棚

"42人が消えた渚" 第6話

彼女はいつもよりに布団に入ったが、が冴えてなかなか寝付けなかった。目を閉じると、勇気の顔や、あの42のクラスメイトたちの若い顔が、代わる代わる暗に浮かんでは消えていく。そうして識が朦朧とする、いつのにか浅い眠りの縁を漂うようにして、彼女は眠りに落ちていった。

どのくらいが経っただろうか。暗の向こうから、ふと、聞き覚えのある懐かしい声が聞こえた気がした。

(……母さん……)

さち子はハッとして目をけた。しかし、そこはいつもの自分の見慣れた寝ではなかった。周囲は見渡す限り、く柔らかなに満ち溢れた、境界の分からない議な空だった。

そして、そのの真んに、1がぽつんとっていた。それは、違いなく息子の勇気だった。失踪したあののままの、17歳のの制姿のままで。しも痩せてもいない、も取っていない、あの1990のままの姿で、彼はそこにいた。

「勇気……!」

さち子の声は歓で掠れた。今すぐ駆け寄って、その細い体をく抱きしめたいのに、なぜか面に張り付いたように全くかない。まるで縛りにあったかのように、体が直してかせないのだ。

アクリル板の向こう側にいるかのように佇む勇気は、し困ったように、でもどこか寂しそうな表を浮かべ、ただ静かに母を見つめて微笑んでいた。

広告

彼は何かを伝えたそうに元を微かにかすが、それは切、声にはならなかった。ただ、元を優しいが吹き抜けるような、議な響きだけが、さち子の鼓膜をそっと撫でた。

「勇気、あなた今どこにいるの!? あの、何があったの!? お母さんに教えて!」

に涙を流して問いかけるさち子に対し、勇気は何も答えず、ただ静かに首を振った。そして、ゆっくりとさち子の方へとを伸ばしてきた。その指先が自分の肌に触れる、そうった瞬、勇気の体はふっとのように透き通り、彼の伸ばしたは、さち子の体を虚しくすり抜けていってしまった。

(触れられない……)

その厳然たる事実が、であるというのに、鋭い刃物となってさち子の胸をく貫いた。勇気はしげな瞳のまま、すっとろを向くと、何もないはずの空点を、の指で真っ直ぐに指差した。

その指し示された指の先には、瞬だけ、真っ暗な夜のと、る砂浜のが見えた気がした。ザアザア、ザアザアと、くから激しい波の音が聞こえてくる。

そこで、さち子の識は急速に現実の世界へと引き戻された。

「はっ……!」

さち子は勢いよく目をけた。界にび込んできたのは、いつもの見慣れた古い自宅の井だった。窓のはまだ暗い、夜の静かな帯だった。

広告

彼女の体は、ぐっしょりと嫌な汗で湿っている。

だったのだ。あまりにも鮮で、あまりにも切ない、息子との再会の。頬を伝って元へと流れる涙のたい覚だけが、やけに々しく残っていた。勇気に会えた信じられないびと、どうしても触れられなかったしみが、胸のでごちゃまぜになって押し寄せてくる。

さち子が涙を拭い、布団から起きがろうとした、そのだった。枕元に置いていたのひらに、何かがチクリとさない痛みをらせた。

「何かしら……」

彼女は怪訝にいながらを伸ばし、シーツのを指先でそっと探ってみた。すると、ざらりとしたたい触が指先に伝わった。指先にくっついて持ちがってきたのは、朝の僅かなかりので、たった1粒だけ、キラりと自然にく輝いている、さな砂の粒だった。

そのさな流は、朝の暗い部で、まるで自ら発しているかのようにく瞬いていた。さち子はその砂を指先に乗せたまま、驚きのあまりしばらくきが取れずにいた。

これを、ただの「奇妙なの名残り」だと笑いばすことは、どうしてもできなかった。で嗅いだ、あの潮の混じった夜のの匂いと、元を打った激しい波の音が、あまりにもはっきりと記憶に焼き付いていたからだ。

砂浜、そして勇気が最に指差した、あの暗い所。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: