"葬儀よりハワイ" 第8話
5。
子が好きだった季節だった。
庭の陽にはまだいが、は柔らかく、差しはるい。洗濯物がよく乾く、気持ちのいい期だった。
吉郎は毎朝、仏壇にを供えるようになった。所ので買う、ほんのさな束だった。そのは、子が好きだったかすみを買ってきた。いさなが、仏壇のでらしく揺れていた。
線をげ、吉郎は遺のの子に語りかけた。
「正が戻ってきたぞ。毎朝、おにをわせてから支度してる。噌汁も作ってくれるようになった。まだまだくそだがな」
吉郎はさく笑った。
「あいつ、ようやく目が覚めたみたいだ。遅すぎたかもしれん。でも、遅くても気づけただけましだろう」
線の煙がゆらゆらとちのぼった。
吉郎はしばらく、その煙の方を目で追った。
「なあ、子。俺のやったこと、やりすぎだったかな」
返事はない。
けれど、吉郎には子ならどう言うか分かっていた。
「あなたらしいわね」
きっと、し呆れたように笑うのだろう。
吉郎は目を細めた。
「おに恥ずかしくないように、わしも最まで背筋を伸ばしてきるよ。約束する」
縁側では、正が洗濯物を干していた。器用にタオルを振り、物干し竿にかけている。その背は、かつて子がっていた所にあった。
吉郎はその背を見つめながら、さく息を吐いた。
失ったものは戻らない。
子はもういない。
それでも、このにはまだ温もりがある。
朝ご飯の湯気。
噌汁の匂い。
洗濯物を干す音。
それがある限り、吉郎はまだきていけるとった。
の真価は、しみのにこそ現れる。
誰かを失った。
途方に暮れた。
そのに何を選ぶかで、そのの本当の姿が見える。
美は旅を選んだ。
吉郎はけじめを選んだ。
正は遅ればせながら、父のそばに戻ることを選んだ。
因果は巡る。
まいた種は、いつか必ず芽をす。
それがになるか、棘になるかは、自分が何をまいたかで決まるのだ。
― 完 ―