みかん小説
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"スイスへ消えた妻" 第6話

 

を許さないわけではありません。

憎み続けたいわけでもない。

ただ、もう必ないのです。

あの所も。

あのたちも。

私は窓のを見ました。

面が、午差しを受けて静かに輝いています。

私はコーヒーカップを両で包み込みました。

温かい。

それだけで分でした。

誰かの妻としてではなく。

誰かの嫁としてでもなく。

藤崎陽子として、きている。

その実が、胸いっぱいに広がっていました。

 

夜。

私はアパートの机に座り、本から持ってきた古い通帳をいていました。

そこには、のために働き続けたが刻まれています。

若かった頃の私。

だった私。

認められたくて、されたくて、尽くし続けた私。

私は静かに通帳を閉じました。

もし、あの

病院で真実を告げていたら。

もし、もっとく逃げていたら。

そんな“もし”は、何度もをよぎります。

けれど、もう振り返る必はありません。

私は失ったものもい。

も。

も。

も。

でも、その代わりにに入れたものがあります。

自由です。

誰にも支配されない

自分で選べる未来。

それは、何にも代えがたいものでした。

窓のでは、スイスの夜景が静かに輝いています。

私はさく息を吐きました。

そして、誰に聞かせるでもなく呟きます。

「やっと、きられる」

その声は、とても静かでした。

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けれど、確かに私自の声でした。

 

になりました。

チューリッヒのには柔らかな陽射しがり注ぎ、の周りにはとりどりのが咲いています。

私は休の朝、さなパンで焼きたてのクロワッサンを買いました。

袋から漂うバターのり。

それだけで、し幸せな気持ちになります。

本にいた頃の私は、“幸せ”とは、もっときなものだとっていました。

派な

会社。

跡取り。

体。

でも、本当は違ったのです。

静かに眠れる夜。

誰にも怯えない朝。

好きなものを選べる自由。

それこそが、本当の幸せでした。

私はベンチへ腰をろし、空を見げました。

どこまでも青い空。

鳥が自由にんでいます。

かつての私は、嵐という名の鳥籠のにいました。

でも今は違います。

私は、自分の翼でべる。

回りだったかもしれない。

傷だらけになったかもしれない。

それでも、私はようやく自分のを取り戻しました。

スマートフォンが震えます。

マイケルからのメッセージでした。

『今のランチ、来るか?』

私は微笑みながら返信を打ちました。

『もちろん』

そしてがります。

が髪を揺らしました。

私はもう振り返りません。

鳥籠のには、こんなにも広い空が広がっていたのですから。

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