"スイスへ消えた妻" 第5話
「本当に無責任な女よね。仕事を放りして逃げるなんて」
湯呑みを片に、満げに呟きます。
そのでした。
達也さんのパソコンへ、通のメールが届きました。
件名は――契約解除通。
送り主は、ドイツ最の取引先であるシュミット社でした。
達也さんは慌てて翻訳ツールを起しました。
画面に表示された文章を見た瞬、顔が変わります。
『貴社担当の藤崎陽子氏と連絡が取れないため、信用関係の維持は能と判断しました。全契約を止します』
達也さんの唇が震えました。
「そんな……」
さらに追い打ちをかけるように、話が鳴ります。
経理部の社員が青ざめた顔でび込んできました。
「社、変です! が追加融資を止めると!」
総郎さんが机を叩きました。
「なんでだ!」
社員は震える声で答えます。
「取引の止と、資管理担当者を理由に……」
総郎さんの顔から血の気が引きました。
嵐商事は、表向きこそ企業でした。
けれど実態は、私の実務でどうにか支えられていた張りぼてだったのです。
その張りぼては、今、音をてて崩れ始めていました。
達也さんは必に私へ連絡を取ろうとしました。
メール。
SNS。
昔使っていたアカウント。
しかし、何も繋がりません。
私は完全に消えていたのです。
「陽子……戻ってくれ……」
達也さんは、机に額を押し付けながら呟いたそうです。
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けれど、もう遅かった。
私を捨てた瞬から、嵐の崩壊は始まっていたのです。
チューリッヒの朝は静かでした。
ホテルの窓をけると、澄んだ空気が部へ流れ込んできます。
くにはアルプスの々。
鏡のような。
私はテラスにち、く息を吸いました。
その瞬、涙がこぼれました。
しいからではありません。
苦しかった呼吸が、やっとできるようになったからです。
本にいた頃の私は、常に誰かの顔を見てきていました。
義母の嫌。
義父の期待。
夫のプライド。
私は、自分を空っぽにしながら尽くしていたのです。
でも今は違います。
誰にも怯えなくていい。
誰にも謝らなくていい。
朝に起きて噌汁を作る必もありません。
私はベッドへ腰をろし、さく笑いました。
静かでした。
鳴り声も。
ため息も。
責める線もありません。
ただ、静かな空気だけがありました。
その、スマートフォンへ通のメールが届きます。
差はマイケルでした。
『会社で正式採用が決まった。君の部も準備できている』
私は画面を見つめながら、ゆっくり目を閉じました。
しいが、本当に始まる。
私はようやく、自分自のを歩けるのです。
その頃、本では。
嵐の崩壊が加速していました。
会社は主取引先を失い、資繰りは完全に悪化。
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は追加融資を拒否。
社員たちも次々と退職していったそうです。
義父の総郎さんは毎鳴り散らしていました。
「全部、陽子が悪い!」
けれど、その声に応える者は、もう誰もいません。
義母の義子さんも、にに憔悴していきました。
達也さんは酒に逃げるようになり、昼から社に閉じこもる々。
玲奈さんは、そんな嵐の現実を見て逃げしました。
当然です。
彼女が欲しかったのは、“持ちの跡取り息子の母”というでした。
借まみれの男ではありません。
こうして、すべてが崩れていったのです。
スイスでの活が始まって、半が経ちました。
私はで働きながら、さなアパートで暮らしています。
決して豪華ではありません。
でも、自分で選んだ具。
自分で淹れるコーヒー。
自分のためだけに使える。
そのすべてがおしくじられました。
ある休。
私はのくのカフェで、本を読んでいました。
そのです。
テーブルののスマートフォンが震えました。
らない番号。
本からでした。
私はしばらく画面を見つめました。
そして、静かに通話を切りました。
すぐに留守番話が入ります。
達也さんの声でした。
『陽子……頼む……度だけ話を……』
掠れた声でした。
昔の自信に満ちた響きはありません。
私は再ボタンを止めました。
そして、その番号を静かに着信拒否へ入れます。
もう戻らない。
私は、そう決めていました。
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