"老人ホームの話を聞いた夜" 第4話
目元は腫れ、泣き疲れたような顔をしていた。
正雄は返事をしなかった。
無言で2の横を通り過ぎ、玄関へ向かう。
「父さん、どこへかけるんだ」
健が聞から顔をげた。その声には、ぎこちない優しさが滲んでいた。罪悪から来るい優しさだった。
「昨のことは、本当にすまなかった。俺たちがどうかしていたんだ」
今さら何を言うのか。
正雄は振り返らず、靴箱から1番良い革靴を取りした。子の葬儀以来、ずっとしまい込んでいたものだ。布で埃を払い、ゆっくりとを入れる。
「お義父さん、朝ご飯すぐできますから。お義父さんの好きな焼き鮭とし巻き卵を……」
由美が必に声をかける。
だが、その言葉は正雄のを素通りした。
もう、彼らの言葉は正雄のに届かなかった。
「父さん、聞いてるのか」
健がし苛ったように声を荒げた。
その、正雄は初めて振り返った。息子と嫁の顔を、何のも浮かばないたい目で見つめる。2はその線に射抜かれ、言葉を失った。
正雄は何も言わず、玄関のドアをけてへた。
向かった先は、駅にある1番きな産会社だった。
ガラス張りの舗には「幸運産」という板が掲げられていた。今の正雄には、皮肉な名にえた。
自ドアがくと、涼やかなチャイムの音とともに、30代半ほどの男性社員がちがった。
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「本はどのようなご件でしょうか」
正雄は内を度見渡し、担当者の目をまっすぐに見据えた。
「を売りたい」
その言に、担当者の笑顔がわずかに固まった。
「はい。物件の売却でございますね。どちらの物件になりますでしょうか」
「俺が今んでいるだ」
担当者の表が驚きに変わった。
「ご自宅を、でございますか。失礼ですが、お引っ越し先などはお決まりで……」
「それはで考える。まずはこのを売りたいんだ」
正雄は鞄から桐の箱を取りし、から登記権利をしてカウンターに置いた。
「これがそのの権利だ」
担当者は恐る恐る類を確認し、パソコンで報を調べ始めた。
「お客様、鈴正雄様でお違いございませんか」
「ああ、そうだ」
「あの、変申しげにくいのですが、ご族の皆様のご承は……」
正雄はのひらを向けて遮った。
「これは俺名義のだ。俺が建て、俺がローンを完済した。所者は俺1だ。族の承など必ない」
言い切る声には、揺るぎがなかった。
担当者は、その気迫に押されたようにをげた。
「失礼いたしました」
それ以踏み込んではいけないと察したのだろう。彼は再びパソコンに向き直り、真剣な顔で言った。
「鈴様、現の相ですと、このくらいの価格になります。ただ、急ぎで売却されるは、おくしないと買いが見つかりにくいかと」
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「構わん」
正雄は即答した。
「相よりくなってもいい。条件は1つだけだ。できるだけく、現で買い取ってくれる相を見つけてくれ。能なら今週にでも」
その言葉に、担当者の目が見かれた。
現、期売却、値げ。
産にとって、これ以ない条件だった。
担当者の顔が、戸惑いから仕事の鋭さへと変わるのを、正雄は見逃さなかった。
に戻ると、卓には奇妙な平が用されていた。
由美は罪滅ぼしのように、正雄の好物ばかりを並べた。照りよく煮つけられたカレイ、ほうれんのごまえ、湯気をてる豚汁。
「お義父さん、カレイお好きでしょう」
健も珍しく言った。
「父さん、ビールむか。俺が注ぐよ」
正雄は何も言わず、それを受けた。
見え透いた嫌取りが滑稽でならなかった。
その卓で、隼がふと顔をげた。
「ねえ、ママ。この話で美ちゃんママに言ってたよね。うちのじいじのせいで毎イライラするって」
ビールのグラスが、音をててテーブルに置かれた。
由美の顔から表が消えた。
「隼、何を急に……」
「だって言ってたもん。施設でも入ってくれないかなって。僕、隣で聞いてたもん」
悪のない、純粋な暴だった。
やはり、あの夜だけではなかった。
あれが彼らの常であり、本だったのだ。
正雄は黙って豚汁をすすった。
その静けさので、復讐の計だけが確実にんでいた。
数、健が話題を変えるように言った。