"葬儀よりハワイ" 第5話
昼過ぎ、正がやって来た。1だった。玄関で靴を脱ぐ正の目は赤かった。吉郎は何も言わず、子のもとへ案内した。
布団のに横たわる母を見て、正は膝をついた。
「母さん……」
吉郎は部の隅で、息子の背を黙って見ていた。
葬儀は3の1220に決まった。くの葬祭で、こぢんまりとした族葬の形でうことにした。子は派なことを嫌うだったから、吉郎は静かに送りしてやりたかった。
葬儀の、1219の夜。夕の支度をしていた吉郎の話が鳴った。正からだった。
「もしもし」
正の声はやけにさかった。
「親父……美のことなんだけど」
吉郎はを止めた。
「どうした」
「の葬儀、美が旅にくって言ってるんだ」
瞬、吉郎は自分のを疑った。
「旅?」
「うん。ハワイ旅をから予約してたらしくて、友達と4でく予定で……キャンセル料もかかるからきたいって」
吉郎は台所の子にゆっくり腰をろした。
は子の葬儀だ。
55連れ添った妻の、最の別れのだ。
「正」
声がくなった。
「おは、それを許すのか」
話の向こうはい沈黙に包まれた。
その沈黙のを、吉郎は痛いほど理解した。
正は止められなかったのだ。
やがて正が言った。
「すまない、親父」
その声は、妻を止められなかった男の惨めな声だった。
吉郎は静かに話を切った。
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その夜、吉郎は奥の部に置された子の顔を見た。穏やかな表だった。何もらない、らかな顔だった。
おの嫁は、おの葬式より旅を選んだぞ、子。
そうった瞬、涙がこぼれた。
しみの涙ではなかった。
悔しさの涙だった。
1220、葬儀の朝。
れののないだった。空気はきんとえて、吐く息がく曇った。吉郎は喪に着替え、鏡のでネクタイを締めた。介護と葬儀の準備で、すっかり痩せた自分の顔が映っていた。
しっかりしろ。
今が最だ。
葬祭には、親戚や所のたちがしずつ集まっていた。子と親しかった向かいの奥さん、町内会の顔見り、吉郎の会社で昔働いていた元従業員夫婦。皆が静かにをわせてくれた。
正も来ていた。喪を着て、受付の伝いをしている。
しかし、その隣にいるはずの美はいなかった。
参列者が挨拶に来るたび、誰かが尋ねた。
「お嫁さんは、お見えにならないんですか?」
その質問が来るたび、吉郎の胸に鋭い痛みがった。
それでも吉郎は、穏やかな顔を崩さずに答えた。
「体調を崩しまして。本も残がっているんですが」
嘘だった。
美は今頃、空港にいるはずだった。キャリーケースを引き、パスポートをに、友たちと笑いながら搭乗へ向かっているのだろう。
義母の棺のにの1輪も向けずに。
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だが吉郎は本当のことを言わなかった。
ここで「嫁は旅にきました」と言えば、子が恥をかく。きている、1度も自分を恥ずかしいとわせなかった子に、最の最で惨めないをさせたくなかった。
焼の列ができた。
1、また1と棺にを入れていく。い菊、淡いピンクのカーネーション。棺のの子は、に囲まれて眠っているように見えた。
吉郎が最にを入れようとした、胸ポケットのスマートフォンがさく震えた。
本来なら無するところだった。けれど吉郎は、なぜか画面を確認してしまった。
美のSNSの更だった。
空港のラウンジ。きな窓の向こうに。テーブルにはビールとつまみ。美は友たちに囲まれ、弾けるような笑顔で写っていた。
添えられた文は、こうだった。
「やっとハワイ。しばらくリフレッシュしてきます」
吉郎は画面を見つめた。
3秒。
5秒。
10秒。
指が震えていた。
ゆっくり画面を閉じ、棺のの子に目を戻した。に埋もれた顔は、どこまでも優しかった。
吉郎はのだけでつぶやいた。
「子、すまんな。わしは、あの嫁を許すことができん」
葬儀が終わり、葬へ移り、骨を拾い、遺と遺骨を抱えてに戻ったには、もうが暮れていた。
仏壇のに座り、遺を置く。写真のの子は、3ほど、所の公園で撮ったものだった。
桜のでし照れくさそうに笑っている、吉郎の1番好きな写真だった。