"老人ホームの話を聞いた夜" 第3話
古い着物とアルバムのに、桐の箱が隠すようにしまわれている。正雄はそれを震えるで取りした。
箱のには、に包まれた類が入っていた。
登記権利。
その文字を見た瞬、正雄の呼吸がしくなった。
このは、このが紛れもなく自分のものであることを示す証だった。正雄はそれをい入るように見つめた。のに、これまでのが滲んで見えるようだった。
建設現の埃。
流した汗。
族のためにみ込んだ満。
んだ妻、子の笑顔。
すべてが、この1枚のに凝縮されていた。
「誰が主か、いらせてやる」
呟いた声は、自分でも驚くほどたく静かだった。
窓から差し込むかりが、正雄の顔を照らしている。その目に宿っていたのは、しみでもりでもない。もっとく、もっと静かな決だった。
その夜、正雄はもできなかった。
ベッドに横になっても、りと屈辱が腹の底で煮えくり返り、眠りを拒んだ。暗ので、正雄はじっと井を睨んでいた。
40見慣れた井だった。
この部で、き妻の子と笑いったがあった。をした幼い健を2で病した夜もあった。
井の隅にあるさな染みを見るたび、子は「あなた、あれ、図みたいね」と子どものように笑っていた。
「子、すまない。俺はおが命をかけて残してくれた族を、守れなかったのかもしれない」
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タンスのに置かれた子の遺が、暗のでぼんやり浮かぶ。優しい笑顔は何も語らない。だが正雄には、彼女がしんでいるように見えてならなかった。
と汗にまみれて帰宅すると、いつも「お疲れ様」と迎えてくれた子。
初めて健が「父ちゃん」と呼んでくれた。
このを建てるため、を貯めるのにどれだけ切り詰めたか。
の引き渡しの、まだ具もない広いリビングで、族3でコンビニ弁当をべた。あのの弁当は、どんな級料理よりも美しかった。
ひとつひとつのいが、鋭いガラスの破片となって胸に刺さった。
「あの頃、健は確かに俺たちの切な息子だった。由美も結婚当初は、お義父さんと慕ってくれていたはずだ。隼がまれたは、にも昇る気持ちだった」
いつからだったのか。
いつから歯は狂ったのか。
いや、違う。
狂っていたのは、あいつらの方だ。
自分はただ、族をし、このを守ろうとしてきただけだった。その結果が、邪魔者、荷物、さっさとてけ。
冗談ではない。
正雄はゆっくり体を起こした。
窓のが、わずかにみ始めていた。夜のがれ、の空がからへと変わっていく。
夜けだった。
それは、正雄ののにも訪れたしい夜けだった。
もう迷いはない。
これまでは族のためにきてきた。
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子のため、健のため、隼のため、自分のことはいつも回しだった。
だが、もう終わりだ。
「俺のをきる」
誰に言うでもなく、正雄は呟いた。
これからのは、誰のためでもない。自分自のためのものだ。
正雄はベッドからり、クローゼットをけた。ハンガーにかかったのから、1番等なシャツを選びす。数、まだ元気だった子が誕にくれた空のシャツだった。
しシワが目った。
「子、見ていてくれ。おの旦は、このまま黙って朽ち果てたりはしないぞ」
遺にそう語りかけると、正雄は押し入れからアイロン台とアイロンを取りした。
アイロンが温まる音が、静まり返った部に響く。正雄は襟から袖へ、背へと、丁寧にシワを伸ばしていった。
スチームがい湯気をげるたび、にこびりついた迷いやしみが浄化されていくようだった。
すべてのシワが伸びたシャツを着た、正雄の背はもう、打ちひしがれた老のものではなかった。
最のきな戦いに挑む、1の男の背だった。
朝のリビングは、凍りついた沈黙に包まれていた。
正雄が部からると、キッチンにつ由美と、卓で聞を広げる健が、びくりと肩を震わせた。隼の姿はない。おそらく部に閉じこもっているのだろう。
「お、おはようございます、お義父さん」
由美が恐る恐る挨拶した。