"老人ホームの話を聞いた夜" 第2話
正雄の目のが真っ暗になった。
「本当にそうだよな。こっちも気詰まりでにそうだ」
息子の同。
それが、とどめだった。
「親父がいると、隼の友達も呼びにくいし、俺たちだって夜リビングでゆっくりテレビも見られない」
「そうなのよ。いつも代劇かニュースばっかり。隼がアニメを見たがってもさせてるのよ。それに、私たち夫婦のだって……」
もう、聞いていられなかった。
正雄は歩、また歩と、音をてないようにずさった。全が震えていた。りなのか、しみなのか、絶望なのか、自分でも分からなかった。
俺はいつから、こんなにも厄介な荷物になってしまったのだろう。
なぜ、自分ので息を潜めて、あいつらの勝な会話を聞いていなければならないのだ。
ずさっていたが、に止まった。
震えが、灼のりへと変わっていく。、の奥で張り詰めていた忍耐という細い糸が、ぷつりと切れた気がした。
もうの限界だった。
正雄は踵を返し、リビングのドアノブを握った。そして、ありったけの力でドアをけ放った。
バーン。
凄まじい音が、夜の静寂を切り裂いた。
ソファで隼をなだめていた由美が、鳴にい声をげてびがる。健も肩を震わせ、幽霊でも見たような顔で固まった。
「この恩らずどもが」
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正雄の声は、自分のものとはえないほどかった。りに震えた声が、の隅々にまで響き渡る。
「お、お義父さん……」
由美が青ざめた顔でち尽くした。
「父さん、いつからそこに……」
健がどもりながら歩ずさる。
「いつから俺は、おたちの荷物になったんだ。答えろ」
正雄の声が再びリビングを揺らした。
「このは俺のだ。俺が血を吐くいで建てただぞ。その俺を、おたちが追いすだと。ふざけるのも概にしろ」
その剣幕に怯えた隼が、わっと泣きした。
由美が反射に隼を抱きしめようとしたが、正雄がそれを止めた。
「くな」
鳴のようなに、由美のきが凍った。
「お義父さん、私たちは、そんなつもりじゃ……」
「黙れ。全部聞いた。老ホームを探すだと。田舎に追い払うだと。聞こえているんだ、すべて」
健が慌ててにようとした。
「父さん、誤解です。俺たちはただ……」
「誤解だと?俺がでもくなったとったか」
正雄は由美を睨みつけた。
「由美、おが何と言ったか、俺のははっきり聞いているぞ。姑の顔を伺うのはもう疲れた。さっさとてってくれればいいのに。そう言ったな」
由美の顔から血の気が引いた。
「あ、あの、それは……ついになって……」
「になってか?隼にもそうやって教えたんだろう。じいじは田舎にけばいいのよと、吹き込んだんだろう」
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正雄は泣きじゃくる隼を指さした。
「この子が、じいじは臭いだの、咳がうるさいだの言っても、おたちは1度でも本気で叱ったことがあったか。なかったな。それどころか、緒になって頷いていたじゃないか」
隼の泣き声がさらにきくなる。
健がすがるように言った。
「父さん、やめてくれ。隼が怖がってる」
「おも同罪だ」
正雄は息子を睨んだ。
「この俺に育てられたおが、親に老ホームへけだと。それも、できるだけいところを探せだと」
「父さん、本当にそんなつもりじゃ……」
「俺がおをどうやって育ててきたとっている。学にかせるために、真の炎で働き、結婚資を面するために退職まで借りした。おたちのために、俺がどれだけのものを犠牲にしてきたか、忘れたとは言わせんぞ」
正雄の声は、りだけでなくしみに震えていた。
「夜けから夜まで、文字通り骨を削って働いて、ようやくに入れたのがこのだ。それを今になって、俺を追いす相談か」
もう、彼らの顔を見ていたくなかった。
正雄は族に背を向け、を踏み鳴らしながら自分の部へ向かった。背で健が何かを言おうとしたが、聞く気はなかった。
バタン。
力任せに閉めたドアの音が、全体を震わせた。
リビングには、呆然とち尽くす族と、隼の泣き声だけが残された。
部に戻った正雄は、荒い息をえることもせず、タンスの番の引きしを乱暴にけた。