"たばこを買いに来るおじさんの心の声が、俺にだけ聞こえる" 第3話
聞いてくれたら、答えるよ
翌の昼、チャーシューの欄を丸で囲んだメニューの写真が届いた。〈今度は皿。悠真のおごり〉
〈今は無理です〉と打って消す。分ほどして、〈ラーメンの気分じゃないなら、は変えてもいいよ〉と来た。聞きたいのはべ物のことじゃない。怜さんの「やり直せないか」がかられなかった。腰はどうだと聞くぶりが、台所に塩があるか尋ねるみたいに自然で、俺はりって週いのに、蒼介さんがコーヒーに砂糖を入れるかもらなかった。
2317分。蒼介さんは蔵ケースからいちごプリンを取ってきた。
「今はたばこは買わない。がるの待ってる」
鮭おにぎりをつ持った直が固まった。棚のほうへ追いやってから、声で聞いた。
「川怜さん、元彼なんですか」
「うん。別れてちょっと」
「まだ好きですか」
財布を探っていたが止まった。蒼介さんは目を逸らさなかった。
「つきってたから、覚えてることはある。でも、よりを戻すつもりはない。どうして聞きたいの?」
プリンを度通し、もう度通した。同じ額がつてから、元に個しかないと気づいた。彼は笑わずにケースに戻り、もう個持ってきた。
〈妬いてるのか聞きたい。違うって言われたら、どうしよう〉
そうです、と言いそうになった。怜さんがよりを戻したいのも、彼が何を聞きたいのも、もう先にっている。
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次の言葉くらい、にして聞かせてほしかった。
「がるのを待って、何がしたいんです?」
彼は何度かプリンを押しやろうとしてはを戻した。客が来て、直がもう台をける。蒼介さんは脇に寄り、がれてから声を落とした。
「俺、悠真のことが好きだ。最毎来るのは、会いたいから。客としかえないなら、もうし距を取る」
「嫌いなんて、言ってないですけど」
持ちげかけたプリンの容器がへこんだ。笑ってもう片方もに押しつけた。
「、何に迎えに来てくれます?」
「悠真ががるにくよ」
そのから、彼はほかの物も買うようになった。傘を買ったくせに、がれているのを見てしばらく元を眺めていたことがある。通したとき、に俺が袖まで濡らしてに戻ったのをいしていた。次にった、自転のかごにその傘が入っていた。
俺も彼を困らせた。曜に焼き肉に誘われ、でいくらか聞いた。おごると言われても名を調べた。費はもう半分以使っていて、そこで度べたら帰って週は計算し直す。そう言うと、しばらく黙っていた彼が、「普段はどこが好き?」と聞いた。
学裏の定でアジフライをべた。先に平らげた彼は度お茶をしてくれ、帰りには壁に貼ってあった姜焼きを次は頼みたいと言った。
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焼き肉の予約はもう取り消したという。料がたらまた考えようと答えると、次に会うを俺に決めさせてくれた。スマホの予定のメモ欄に、こっそり「デート」と入れた。
初めてのでをつないだのは、駅まで送ってもらった夜だった。の甲が何度も触れてはれるから、俺から指を引っかけた。「寒い?」と聞かれ、寒くないと答えたら、をすっぽり包まれた。駅に着いてから、「ここでつなぐの、嫌だった?」と聞く。
「俺がつながなかったら、ずっと寒いか聞いてたでしょ」
「お腹空いたかも聞いたかもしれない」
れがたくて、駅で翌発売のプリンの話を分もした。次ののアナウンスで、入に詰まっていたが改札へ流れていく。俺もかなきゃいけないのに、はまだ蒼介さんののにあった。
のない壁際へ、蒼介さんが半歩がった。ついていくと、「キスしていい?」と聞かれた。
いいです、と返事だけはかった。いざ顔がづくと、し引いてしまった。蒼介さんはすぐ止まった。顎に剃り残しがしあるのが分かるほどかった。触ってみても、顔をかさずにいてくれた。
「ちょっと緊張してます」
「俺も。、つないでくれたときから」
親指が俺のの甲を撫でた。今度は俺から顎をげた。まだ逃げるか迷っているみたいに、最初はの端に触れただけだった。
逃げる代わりに袖をつかんで、残った隙を詰めた。の甲かられたが俺の頬を包んだ。あったかくて、くのが惜しくなった。くは触れていなかったのに、目をけるにもう度、唇がなった。今度は袖をつかんでいたことも忘れ、腕にを回してようやく踏ん張った。
くで改札が鳴った。蒼介さんはをろし、ずれたかばんのひもを肩に戻してくれた。くけと言われるかとったら、先に俺が握っていた袖を見た。すっかりしわになっていた。
「それ、も着られます?」
「着られるよ」
袖を伸ばしかけ、途でやめた。「もこれ着て迎えにく」
改札を通って振り返った。蒼介さんはまだそこにいて、また自分の袖を見ていた。
帰りの内でで笑っていたら、ポケットのスマホが震えた。蒼介さんかとった。親父だった。
借入残の写真。末尾に480万円。そのに〈今週帰ってこられるか。こないだ迎えに来てた、仕事できそうだな。度会わせてくれ〉。
膝のにスマホを伏せた。りるまでにまた度、画面がった。俺が誰とかけたかなんて、親父はめったに聞かない。料なら、なおさらだった。