みかん小説
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"たばこを買いに来るおじさんの心の声が、俺にだけ聞こえる" 第1話

いつもの、ひと箱

「次に同じミスをしたら、から来なくていい」

危うく、取ったばかりのたばこを元のごみ箱に落とすところだった。男はスマホをに当てているくせに、まっすぐ俺を見ていた。度謝って、度目をにしかけたとき、彼が箱をスキャナーのへ押しやった。

「これ、ひと箱。今の、話の相に言ったんだけど」

話の向こうで何か言われたらしい。男はもう声を荒らげず、スキャナーのから箱を引いて、「ちょっと待って」と俺に言った。

「配表、誰が直した?」秒ほどを傾けた。「じゃあ、直した本と話す。運転は表のとおりにったんだろ。なんで先にそいつの料から引くんだ」

相がまだ何か言っている。「先方には俺がる。代の費用も俺に回して」と答えて話を切った。箱を戻すと、俺の元を見て、「待たせたね」と言った。

ピッ、と鳴った。穴があったら入りたいとった、その直だった。

〈の客には回も笑ってたのに。なんで俺には笑ってくれないんだろう〉

顔をげた。男のはいていなかった。

レジの計は2317分。蔵ケースの音がして、のではタクシーが信号待ちをしていた。じっと見ていたら、男が眉を寄せた。

「齢確認?」

「いえ。ずいぶん落ち着いて見えるので」

老けて見えると言ったも同然だと気づいたのは、言ってからだった。

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それなのに、たばこを受け取った男の元はちょっと緩んだ。

横浜のこのコンビニで夜勤に入って、もうすぐになる。疲れて聞き違うことはあっても、いてもいないからあんなにはっきり声が聞こえたのは初めてだった。品しの直に何か聞こえなかったか尋ねると、カップ麺の箱を抱えててきた。

「おが謝ってるのは聞こえた。棚列向こうまで筒抜け」

俺よりつの直には、レシートの替え方も、欠員がるたびにシフトを引き受けるなということも教わった。その本が「困ったら俺に言えよ」と言いながら、彼女の誕だからと曜の夜勤を俺に回してきた。俺にも約束があったけれど、先に親父から今週あと万円送れないかと連絡が来た。残を見て、引き受けた。

翌晩も男は来た。黒いコートにいシャツ。きっちりして見えるのに、袖の折り方だけが雑だった。

「昨と同じの」

を伸ばしたところで、レンジを待っていた客がいスープをこぼした。ににわないと焦って、ペーパーで拭くそばから袖を汚している。おしぼりをつ渡し、カップをこちらに寄せた。

「窓際のおにぎり、忘れないでくださいね」

客がていくと、男は銭を握ったまま、さっきと同じ所にっていた。

「お待たせしました」

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「りい?」

「いえ。いつも同じに乗るです。おにぎりを回忘れてます。お客さんのことは覚えやすいですよ。来ても言しかしゃべらないから」

「もう言ぐらい言えるよ」

箱を見たまましばらく考えて、「袋ある?」と言う。

「たばこ箱で?」

本まで言葉に詰まった。俺が吹きしてバーコードを通すと、また声がした。

〈今は向こうから俺を見てくれた〉

会計を済ませた男は礼を言って、振り向きもせずていった。たばこはレジに置いたままだった。

追いかけて「おじさん!」と呼ぶと、横断歩でコート姿の男が、同に振り返った。

「黒いほうの方。お忘れ物です」

もうがると、彼はコートのポケットを探り、箱を受け取った。

「そんなにおじさんに見える?」

「正直に言っていいですか」

「やっぱりいい」

赤信号の残りは秒ほど。彼は何から入るのかと聞いた。シフト次第だと答えると、青に変わって周りが歩きしてから、ようやく自分も渡ることをいしたらしい。

晩目は来なかった。黒いコートのがを通っただけで煙棚にを伸ばしたら、直が目ので指を振った。

「今、回も取り違えてるぞ。藤野に見つかったら、また俺が教え直すことになるだろ。棚を見ろよ、入ばっかり見てないで」

顔なじみのおばあさんのあんパンを通したときは、まだ2316分で、何も聞こえなかった。

銭を探しているうちに牛乳を追加したいと言われ、それを通すと計が変わっていた。

〈おじいさん、今はしべてくれるといいけど。朝ごはんも残したしね〉

にしたのは、牛乳だけ別の袋に入れてほしいということだった。持ちがい込まないよう、袋をねた。スマホとレジはどちらも2317分。そのあと何度か確かめて分かった。夜のその刻を過ぎて会計すると、相のに浮かんだ言葉がつ聞こえる。同じ会計で何点通しても、つだけ。笑いたくなることもあれば、聞こえなかったふりしかできないこともあった。

引き継ぎの、の担当のサインが入った「引継」の封筒を直に渡しかけると、が棚越しに止めた。

「で数えてからサイン。誰が誰に渡したか残してね」

「毎それですね。入の内放送より律儀」

「おがわなくなったに分かるわよ」

が奥へくと、直は曜の代わりはもういいと言いした。彼女の予定が変わったという。こっちはもう友達と約束をずらしたと伝えると、「てっきり入りたいんだとってた」と肩を叩かれた。は欲しいけど、ほかにもしたいことはある。サインしたを引き寄せてそう答え、その晩はもうシフトの話をしなかった。

晩目。直が入荷した品を奥で理していて、表には俺だった。

2317分がづいた頃、酒臭い客が缶ビールをレジに叩きつけた。釣りが遅いとトレーにを伸ばし、俺が引いたら、今度はエプロンをつかんだ。ひもが腰にい込んだ。

そのを剝がそうとしたとき、横から別のが伸び、トレーの端を押さえた。

「、置いて。その子のからもをせ」

声ですぐ分かった。これまで回ともたばこを箱買った男は、その晩、まだ注文すらしていなかった。

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