"十五年間謝り続けた私に、夫は妹の子を差し出した" 第19話
そして、法為に基づく慰謝料百万の確定通。
さらにそのへ、私は枚の類をねました。
緑の枠線が印刷された、婚届でした。
私の欄にはすでに、黒い万で署名と実印の捺印が済んでいました。
「署名と捺印をしてください」
私の声には、片の迷いもありませんでした。
「これ以、あなたと共するは秒もありません」
修は机のの類を見つめ、それから絶望に満ちた目で私を見げました。
「美智子……頼むよ……」
「署名してください」
調委員の初老の男性が、静かに促しました。
「田修さん。これ以の引き延ばしは、法にをなしません」
逃げは、完全に塞がれていました。
修の喉から、獣のような嗚咽が漏れました。
震える指先でボールペンを握り、男は婚届の夫の欄に、歪んだ文字で自分の名をき込みました。
朱肉の赤が、いのに鮮血のように押されました。
カチリと、の呪縛が解ける音が、私の胸の奥に響き渡りました。
庭裁判所の正面玄関をると、凍てつくの空気が頬を撫でました。
階段をりようとした私の背に、狂乱した声がんできました。
「美智子ッ!」
振り返ると、コートも着ずにびしてきた修が、階段のでち尽くしていました。
男の顔は、屈辱と憎悪で醜く歪んでいました。
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「の女ができていけるとうなよ!」
え切ったの、修の絶叫が段にこだましました。
「子どももいない、実も潰れた女を、誰が相にするっていうんだ! おは、孤独に野垂れぬんだよ!」
通りすがりの々が、驚いてを止めました。
れな男の、最の悪あがきでした。
私はち止まり、静かに修を見げました。
そして、唇の端に、く、穏やかな笑みを浮かべました。
「ええ。それでも、あなたの嘘に縛られていたより、何万倍も幸せだわ」
修が息を呑み、絶句しました。
私は度と振り返ることなく、歩きしました。
の切れから、柔らかなの陽が差し込み、アスファルトのに私のいを落としていました。
背筋をまっすぐに伸ばし、私は確かな取りで、だけを見つめて歩き続けました。
の、の夕暮れ。
私は歳の誕を迎えました。
建材会社の仕事は正社員としての登用が決まり、さな会社の経理部をで任されるようになっていました。
毎の料で賃を払い、休にしずつ揃えた欧の器を並べ、誰の嫌も伺わずに眠りにつく。
そんな当たりの平穏が、何物にも代えがたい宝物でした。
退社、私は駅の商にあるさな菓子のにち寄りました。
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ガラスのショーケースのに、艶やかな赤い苺が乗った、さなショートケーキがつ並んでいました。
、私は自分のためにケーキつ買うことすら、罪悪を覚えていました。
『子どもも産めない分で贅沢をしてはいけない』
『夫の会社が苦しいのだから、円でも節約しなければならない』
そうやって自分を呪い、削り続けてきた々。
私はに入り、財布から千円札を取りしました。
「こちらのショートケーキをつ、いただけますか」
「かしこまりました」
丁寧にリボンをかけられたさな箱を受け取り、私は自分のマンションへと歩きました。
夜の帳がりた部の灯りをつけ、さな丸テーブルのにケーキを置きました。
湯気のつ茶を淹れ、細い本の蝋燭にを灯しました。
揺れるさな炎を見つめていた、そのでした。
テーブルののスマートフォンが、く震えました。
画面に表示されたのは、登録のない番号からのメッセージでした。
文面をきました。
『今は俺たちの結婚記だ。おがいなくなってから、俺のはめちゃくちゃだ。作業員の飯暮らしで、体も限界なんだ。美智子、頼むから度だけ会ってくれ。やり直したいんだ』
修からでした。
かつてあれほど恐れ、顔を窺い、その言葉つに涙を流していた男の、無残な訴。
私のには、りすら湧きがりませんでした。
そこにあったのは、完全に乾ききった、絶対の無関でした。
私は眉つかさず、画面をタップしました。
『着信拒否』
そして、メッセージの履歴を、度と復元できないゴミ箱へと完全に消しました。
画面が暗転し、静寂が部を満たしました。
私は息を吹きかけ、蝋燭のさな灯を消しました。
い煙がまっすぐにちり、甘いりがふわりと広がります。
フォークをに取り、柔らかなスポンジとクリームをに運びました。
品な甘みと、苺の爽やかな酸が、舌のに広がっていきます。
美しい。
の底から、そういました。
窓のを見げると、澄み切った夜空に、たくも美しい無数のが瞬いていました。
私は微笑み、誰に聞かせるでもなく、静かに呟きました。
「、私はずっと謝ってきた」
フォークを置き、温かい茶を含みます。
「でも、もう度と、誰にも謝らなくていい」
私のしいが、今、静かに始まっていました。