"孤児の私に、婚約者が買い与えた「偽物の両親」" 第14話
その隣で、留袖を着た子さんが、私のベールにそっとを添えていた。
写真のの私は、確かに凍りついていた。
けれど、その背筋は、折れずにピンと伸びていた。
母がんだ歳の。
病院の霊で、たくなった母のを握りしめながら、私はできていくことを誓った。
母の温もりを求めてはいけない。
寂しがってはいけない。
誰かに甘えれば、元をすくわれる。
そうやって自分を縛りつけ、頑なにを閉ざしてきた。
の母親の温もりにすがりたかった自分を、私はのどこかで「さ」だと蔑んでいた。
でも、違った。
母のを恋しくうことも、誰かに綺麗だと言われて涙を流すことも、決して恥ずべきさではない。
私はただ、必にきてきただけだった。
「……お母さん」
さく呟いた。
ぶりににしたその言葉は、もう喉を締め付ける棘ではなかった。
私はクローゼットの奥から、さな桐の箱を取りした。
には、歳のに施設へ持ち込んだ、唯の両親の形見。
遊園ので、父と母に挟まれて笑う、褪せたスナップ写真。
私はその写真を指先で撫で、子さんから届いたと緒に、提げの通勤バッグの内ポケットへと切に収めた。
ピンポーン、と陽気なチャイムが鳴った。
「美咲ー! けてー! 菜がい!」
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ドアの向こうから、莉奈の賑やかな声が響く。
「ちょっと莉奈さん、ったらお豆腐が崩れてしまうでしょう」
続いて聞こえてきた、文恵先の呆れたような、でも穏やかな笑い声。
私は涙を拭い、呼吸をした。
音を弾ませて、玄関へと向かう。
カギをけ、ドアをきく押しいた。
そこには、スーパーのきなレジ袋を両にげた莉奈と、作りのタッパーを抱えて微笑む文恵先がっていた。
「いらっしゃい」
私の声に、文恵先は目を細め、私の肩にそっとを置いた。
温かい、本物ののひらのみ。
「いい部ね、美咲さん。通しがとてもいいわ」
「うん。すごく気に入ってる」
「さあ、入った入った! 今夜は鶏団子鍋だよ! 美咲、ネギ切って!」
莉奈が靴を脱ぎ散らかしながらリビングへがり込む。
文恵先が苦笑いしながら靴を揃える。
部のに、汁のいい匂いと、のない笑い声が満ちていく。
誰かの理を演じる必のない所。
偽りの席次で埋めわせる必のない関係。
私の本当の居所は、最初からここにあったのだ。
それから、が流れた。
初の柔らかなが差し込む、曜の午。
私は都の庭園が見渡せるさな写真館の、テラスに面した控にいた。
に纏っているのは、仕てのいい成りのシルクワンピース。
胸元には、文恵先が自宅の庭で育てたい薔薇を輪だけ挿している。
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の事異で、私は願だった全社研修のプロジェクトリーダーに昇格した。
責任はいが、自分の力で活を切り拓いている確かな応えがあった。
神旬からの連絡は、あの以来、度もない。
陸の営業所へ異になったとの噂でにしたが、私のにはさざ波つたなかった。
あのは、私のの通過儀礼に過ぎなかったのだ。
「美咲、髪、これで丈夫?」
鏡を持った莉奈が、ろから覗き込んできた。
隣には、仕てのいい紺のスーツを着た文恵先が、目を細めてっている。
今は、誰かに嫁ぐためのではない。
歳で施設に入り、歳で社会にて、今まで私を支え続けてくれた切なたちと、きちんとした『族写真』を撮るために集まっただった。
あの嘘で塗り固められそうになった結婚式が消えり、ようやくに入れた、私自の節目。
「とても綺麗よ、美咲さん」
文恵先が、私の肩の布をそっとえてくれた。
偽物の役者のではない。
私が邪を引いた夜、何度も背をさすってくれた、本物の温かいのひらだった。
「準備がいました。テラスへどうぞ」
カメラマンに促され、ガラス扉を抜けてへる。
青々とした芝と、く澄み渡ったの空。
そこには、同じ養護施設で育ち、今はそれぞれの所で懸命にきているの仲も、誇らしげな笑顔で待っていた。
誰の目を気にする必もない。
誰かの体裁のために、自分の過を恥じる必もない。
「じゃあ、真んに美咲さんね」
莉奈が私の腕を取り、文恵先が隣に並ぶ。
仲たちが肩を寄せう。
胸ポケットには、歳の頃の、両親とで笑う古いスナップ写真が静かに収まっていた。
母の温もりを求めて泣いた夜も、親がいないというだけで値踏みされた悔しさも、すべてを抱えたまま、私はここにっている。
「はい、撮りますよ」
カメラマンの図とともに、シャッターの澄んだ音が響いた。
レンズを見つめながら、私はので静かに息を吸い込んだ。
私には、結婚式で両親の席に座ってもらえるはいない。それでも、私のは欠けたままではなかった。ここまで緒に歩いてくれたたちが、ちゃんといたのだから。