"深夜零時、本妻へ捧げた告発" 第5話
事実だけを、を交えずに並べる。それが最も残酷で、最も言い逃れのできない告発であることを、遥は仕事柄よくっていた。 妻が狂うか、あるいは「何かの違いです」と話を切るか。遥はそのどちらの反応も定し、構えていた。
だが、受話器から返ってきたのは、まったく予もしない言葉だった。
『……また、なのね……』
掠れた、ため息のような呟きだった。 そして次の瞬、受話器の向こうから、シクシクとしたすすり泣きが、次第に抑えの利かない嗚咽へと変わっていく音が漏れ聞こえてきた。
『嘘でしょう……。あの子が……萌が、今どれだけ事な期か分かっているのに……。あの、また……同じことを……』
「奥様……?」 遥はわず眉をひそめた。 話の女性――柴崎智恵は、受話器をく握りしめているのか、プラスチックが軋む音をてていた。 『ごめんなさい……取り乱してしまって、本当にごめんなさい。見ずらずのあなたに、こんな姿を……』 「いえ……。奥様、お気を確かに持ってください」
『主は……あのは今、どこにいるかごですか?』 智恵の声は涙で濡れていたが、その問いかけには奇妙な切迫が宿っていた。 「私の世田のマンションので私をろしましたので、おそらく今、首都速を使ってそちらへ向かっている最だといます。あと分から分ほどでご自宅に着くはずです」
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『そうですか……わかりました』 智恵はをすする音をて、震える息をく吸い込んだ。 『瀬尾さん、とおっしゃいましたね。……お辛いでしょうに、こうしてご連絡をくださって、本当にありがとうございます。普通なら、隠して逃げることもできたでしょうに……』 「お礼を言われる筋いはありません。私自、彼に対して激しいりをじています。騙されていたとはいえ、結果としてご庭を混乱させることになってしまい、申し訳ありませんでした」
『いいえ、謝らないでください。悪いのはすべて、あの男です』 智恵の調から、先ほどまでの絶望な泣き声が消え、代わりに底えするような徹な響きが戻ってきた。 『瀬尾さん。もしよろしければ、あのがあなたに送ってきたメッセージや、独だと偽っていた証拠を、残しておいていただけないでしょうか』 「ええ、もちろんそのつもりです。LINEの履歴、マッチングアプリのプロフィール画面、通話履歴、すべて保してあります。必であれば、いつでも提供します」
『ありがとうございます。……主が帰ってきたら、話をつけます。今夜は、もうお休みになってくださいね』 「奥様も……お体を切になさってください」
通話が切れた。 プー、プーというツートーンの械音がに残る。 遥はスマートフォンを胸元に抱きしめたまま、壁に背をもたせかけた。
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「また、同じことを……」 智恵のあの言葉が、ので反芻される。 常習犯なのだ。あの男は、過にも同じように齢を偽り、分を偽り、若い女性を引っ掛けては、庭を裏切り続けてきたのだ。 そして、そのたびに妻を泣かせ、庭を壊しかけながら、何わぬ顔でき延びてきたのだ。
計の針が、夜零を回った。 部のかりも点けず、暗のでミネラルウォーターをんだとき、テーブルのに置いたスマートフォンが、突如として激しく振を始めた。
画面に表示された発信者名。 『相原 蓮』
遥の唇が、自然と歪んだ。 帰ったのだ。越の自宅に到着し、待ち構えていた妻から、あの話の件を突きつけられたのだ。
遥は呼吸をし、喉をえてから、ゆっくりと通話ボタンをスワイプした。 同に、テーブルのに置いていた会社の業務用iPadの録音アプリを静かにタップする。
スピーカーホンにした瞬、スマートフォンから鼓膜を破らんばかりの号がびしてきた。
『おい! 遥! お、何してくれたんだよふざけんな!!』
それは、これまでの半、度たりとも聞いたことのない品で濁った、男の剥きしの叫び声だった。あの柔らかく穏やかだった「蓮くん」の面など、どこにも残っていなかった。
「何って、何のことかしら。柴崎兼さん」
遥が氷のようにたい声で返すと、話の向こうで息が詰まる音がした。