"古希の夜、二人の嫁は手を引いた" 第12話
私は元のメモに目を落とした。
数字の辻褄はっている。
無茶な理論ではなく、痛みを伴う現実な着点だった。
「役所の窓でさ」
夫が両で顔を覆いながら、ぽつりと言った。
「担当のに々聞かれて……介護認定の申請類を渡された、が真っになったよ。こんな面倒なこと、おはずっとで調べて、親父のも段取りをつけてくれてたのか?」
「そうよ」
「俺……らなかった。『千里はしっかりしてるから、任せておけば丈夫だ』って……本気でそうってたんだ」
「任せていたんじゃないわ」
私はややかに言い放った。
「あなたが、見ないふりをして逃げていただけよ」
夫は何も言い返せず、肩を落としてさく息を吐いた。
反省の言葉など、今更何の慰めにもならない。
けれど、この男が初めて自分ので沼を踏み抜いたことだけは、確かなだった。
だが、現実はそう簡単に収束しなかった。
夫がまとめた賃貸アパートへの転居案を話で伝えられた義母が、良太ので激したのだ。
『冗談じゃないわよ! あんな狭い鳥かごみたいな部にで押し込める気!? あんたたち、母親を捨てる気なのね!』
受話器越しに響く義母の切り声は、リビングにいた私にもはっきりと聞こえるほどだった。
『曜、全員千里さんのに集まりなさい! 族全員で話しえば、もっといい方法があるはずよ! 私がちゃんと、全員が納得する案を考えてあげたんだから!』
広告
方に通話を切られ、夫は青ざめた顔で私を見た。
「千里……どうする?」
「いいわよ」
私はたく微笑んだ。
「来てもらいましょう。あのお義母さんが考える『全員が納得する案』がどんなものか、この目で確かめてあげるわ」
曜、午。
自宅のリビングに、異様な緊張が漂っていた。
座のソファーに陣取った義母の顔には、かつての傲さが戻っていた。
隣には、目の焦点をわせようとしない良太。
ダイニング側には、私と夫、そして自からりてきた音。
そして、部の隅の子には、織が座っていた。
義母が「嫁を揃えろ」と良太に命じて引に呼びさせたのだ。
織は膝のに置いたバッグを固く抱え込み、徹な目で義母を見つめている。
義母はわざとらしく咳払いをし、バッグから枚のルーズリーフを取りした。
几帳面な丸文字で、びっしりと表がき込まれている。
「俊も良太も、母親を暮らしさせようなんてたいことばかり言って、本当にけないわ」
義母は勝ち誇ったような笑みを浮かべ、そのをテーブルの央に広げた。
「あのを良太に譲れないっていうなら、それはもう諦めるわよ。私はそこまで欲じゃないからね。でも、私がみ慣れたこのをていく必なんてないでしょう? みんなでしずつ協力すれば、誰も無理をせずに済むのよ」
広告
テーブルのに置かれたの最部には、太い黒マジックでこうかれていた。
【黒田 老活分担シフト表】
嫌な予が、瞬で確信へと変わる。
義母は細い指先で、にかれた項目をつずつ指し示した。
「まず、平は千里さんね。朝と夜の事の準備と、洗濯、お呂掃除を担当。千里さんはフルタイムで働いてるんだから、朝のうちに夜の煮物でも作っておいてくれれば分よ」
私は無言のまま、そのを見つめていた。
「それから週末は、織さん。曜の朝に子供たちを連れてここに来て、私の部の掃除と週の買いし、それから私の話し相をしてちょうだい。曜の夜まで泊まっていけば、良太もたまには羽を伸ばせるでしょう?」
織の眉が、ピクリといた。
「俊は男なんだから、回の病院のしと、毎の活費の分を補填すること。良太は男親で体力があるんだから、球の交換とか庭のむしり、い荷物の運搬を担当する。……どう? 完璧でしょう?」
義母は満そうに胸を張り、全員の顔を見回した。
「これなら誰もで苦しまないし、族の絆も守られる。みんなでしずつ痛みを分けうのが、本当の族ってものでしょう?」
リビングが、を打ったように静まり返った。
計の秒針が、カチ、カチと規則正しい音を刻む。