"古希の夜、二人の嫁は手を引いた" 第3話
「けれど、事の対価としての産がに入る法律は、この国のどこにもしません」
料亭の玄関をた、夜のたい空気が照った頬を撫でた。
宴会は、完全に破綻した。 誰も酒をにできなくなり、叔父たちは居悪そうに「用事があるから」と逃げるように代を置いてちった。 義母は別で過呼吸を起こしたふりをして倒れ込み、駆け寄った良太とでタクシーに乗り込んで消えた。
私と夫の内には、のような沈黙が満ちていた。
国をる、夫は度もをかなかった。 ただ、ハンドルを握る指関節がくなるほど力を込めている。 赤信号でが止まった瞬、夫が耐えきれないようにハンドルを叩いた。
「満かよ」
く濁った声だった。
「母さんに恥をかかせて、親戚全員ので良太夫婦をぶち壊して……そこまでして、自分のだって主張したかったのかよ」
「……は?」
私は助席から、夫の横顔をじっと見つめた。 りというより、底れない侮蔑が胸を満たしていく。
「俊。じゃあ聞くけど、私はあので黙って自分のを奪われるべきだったの?」
「奪うだなんてげさなこと言うな! 母さんは良太と緒にみたいって言っただけだろ! 階はおと俺のスペースにして、階をあいつらに使わせれば丸く収まったじゃないか!」
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「どうして私の資産を、あなたの見栄のために切り売りしなきゃいけないの?」
夫は言葉を詰まらせ、乱暴にアクセルを踏み込んだ。
「おはいつもそうだ! 正論ばっかり並べて、しも族のってものがない! 親戚のみんながどんな目で俺を見てたか分かるか!? 『嫁の尻に敷かれて、母親のまいつ守れない甲斐性なし』って顔をしてたんだぞ!」
やっぱり、そこだった。
この男が恐れていたのは、母親のきでも、弟の活でもない。 「結婚から妻が持っていたに居候している男」という真実が、親族のでのに晒されること。 自分がを構え、老親を引き取って養っている派な男だという虚像が剥がれ落ちること。 ただそれだけだったのだ。
「もういいわ」
私はたく言い放ち、窓のへ線を向けた。
「これ以あなたと話す言葉はない」
自宅に着くと、玄関のかりは消えていた。 義母は自に引きこもり、内側から鍵をかけているようだった。 夫は逃げるように階の斎へ消え、缶ビールのプルタブを引く鋭い音が響いた。
静まり返ったリビングで、私は、たい麦茶を喉に流し込んだ。 。 このを守るためにねてきたと慮が、いかに無だったかを痛していた。
テーブルののスマートフォンが、く震えた。
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画面を覗き込むと、見覚えのない通が表示されていた。 織からのLINEだった。
『お義姉さん、夜遅くに本当に申し訳ありません。今の無礼をお許しください。もし能であれば、今からしだけ、お話しさせていただけないでしょうか』
送信刻は、午零分。 私は迷うことなく、コートを再び羽織って玄関のドアをけた。
夜のロードサイドにあるファミリーレストランは、客も疎らで、蛍灯のが々しくを照らしていた。
ドリンクバーの械が折、ブーンと鈍いモーター音をてている。 向かいって座った織の目のには、濃い隈が落ちていた。 注文したホットコーヒーからちる湯気を、彼女はただじっと見つめている。
「……急に呼びしてしまって、すみませんでした」
織がさくをげた。
「いいのよ。子供たちは?」
「実の母が見てくれています。先週から、子供を連れて実に戻っていたので」
織はく息を吐き、膝ので握りしめた指先を見つめた。 料亭での凛とした態度は鳴りを潜め、代半ばの疲弊した素顔がそこにあった。
「お義姉さん。ずっと聞きたかったことがあるんです」
「何?」
「良太から……ずっと聞かされていました」
織は躊躇うように言葉を区切りながら、私を見げた。
「お義姉さんが私たちのことを疎ましくっていて、関わりたくないからと距を置いているって。
でも、お義母さんの腰がもっとくなったら、私たちが階に引っ越してきて介護をするのが筋だろうって。