"18年介護した義母が亡くなった翌日、私は横領犯にされた" 第2話
「付は先。公正証ではなく、私署証ですが、故の自署名と実印の押印がございます」
「先」
私は記憶を巻き戻す。 そのは、義母が誤嚥性肺炎を併発し、をして酸素マスクをつけていた期だ。 識が朦朧として、族の顔の判別すら怪しいと医師から説を受けた。
そんな状態のが、然とした申述を作成し、実印を用できるはずがない。
「先、もう点。その申述に添付されている資料はありますか。私が預を奪ったとされる根拠です」
弁護士はしのを置き、別のクリアファイルを差しした。 透なシート越しに見えた枚の複写用。
『受任確認および代理権授与』
そこには、確かに私の自のサインと認印があった。
臓が、胃の底に落ちる覚。 背筋を、たい氷がツーと伝い落ちていく。
私の字だ。 違いなく、私がヶにペンをとっていた署名だった。
「ほら見なさいよ!」
由加里がを乗りし、勝ち誇ったように嘲笑った。
「自分の名、しっかりいてあるじゃない。お母さんを脅して無理やりかせたんでしょ? 棒猫。もこのに寄しておいて、最の最に百万毟り取ろうとしたわけ!?」
「由加里、言葉を慎みなさい」
弁護士が制止するが、由加里の端の笑みは消えない。
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はを抱え、「どうしてこんなことに……」とさく呻いている。
私は、卓の類から目をさなかった。
(……待ちなさい。焦るな)
指先が微かに震えるのを、膝ので握りこぶしを作って押し殺す。 狩られる側になるな。 罠を仕掛けられたのなら、罠の継ぎ目を探せ。
「森田先。この受任確認の原本の控えと、義母の申述の写しを、いまここでいただけますか」
「ええ、相続および利害関係として、示請求の範囲内ですのでお渡しできます」
「ちょっと、先! そんな犯罪者に証拠を渡すような真似――」
「由加里さん」
私は静かに首を巡らせ、義妹の目を真っ向から見据えた。 を切交えない、底えのする声。
「私が犯だと主張するなら、正式に警察に被害届をしなさい。業務横領でも窃盗でも何でもいい。ただし、虚偽の申告だったは誣告罪になるわよ。受けてつから、今すぐ呼びなさい」
由加里の息が詰まり、赤く塗られた唇が引きつった。 が慌てて割って入る。
「やめろ美! 親族ので警察なんて……世体が悪すぎるだろ! 恥を晒す気か!」
「恥?」
私は夫の顔をややかに見つめ返した。
「母の遺言を盾に、妻を棒扱いしているこの状況以に、恥ずかしいことがあるの?」
は言葉を失い、喉を鳴らして線を逸らした。 世体。保。面倒の回避。 この男の脳内にあるのは、それだけだ。
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妻の無実を信じることでも、母親の真を確かめることでもない。自分が傷つかず、親族の波がたないこと。それだけがの至命題だった。
受け取ったたいの束をバッグに収め、私は席をった。
「本はこれで失礼します。百万円の使途については、こちらでも厳密に確認させていただきます」
礼して応接をる。 背に突き刺さる由加里の忌々しげな線も、のいため息も、すでに私の識のにあった。
戦う相は、んだ義母と、それに群がるハイエナたちだ。 私は絶対に、泣き寝入りなどしない。
自宅のリビングに置かれた義母の遺のには、まだが飾られていた。
静まり返った部ので、私はダイニングテーブルのに類を並べた。 森田弁護士から受け取った『受任確認』のコピー。 そして、私がこのヶ、毎のように記録し続けてきた『介護記録ノート』だ。
文庫本サイズのノートをく。 体温、血圧、面会、護師からの申し送り事項、購入したおむつやガーゼの領収。 私は几帳面な性格だった。義母の性格、から「あれを買ってきてくれなかった」「おをごまかした」と難癖をつけられるのを警戒し、付と額をすべて円単位で記録していたのだ。
受任確認の付を見る。 。
記憶を繰り寄せる。 そのは、義母が療養型病院へ転院して週ほど経った頃だった。
『美さん、ちょっとこれにサインしてくれるかい』