"十八万円を浮かせたい義母の計算" 第15話
矛先を向けられた聡史が、びくりと肩を震わせた。聡史は唇を噛み、母親の顔を見げた。その瞳には、かつてのような従順なはなかった。末の、凍てつく作業で腰を痛め、客からの罵声を浴び続けた男の、々しい疲弊と悔が宿っていた。
「……母さん、もうやめろよ」
「何ですって?!」
「織に押し付けるのは、もうやめろって言ってるんだ!」
聡史が声を絞りした。
「俺、このでいったよ。菜玉を洗って、切って、塩振って、樽に詰めるのがどれだけの労働か! 腰が砕けそうになって、の皮が全部剥けた! それを織は、ずっとで段取りしてやってたんだぞ! 母さんは万浮かせたいって言ったけど、あれだけの仕事をタダでやらせようとしてたこと自体が、おかしかったんだよ!」
「聡史……! あんた、親に向かって……!」
義母は信じられないものを見るように目を見いた。自分が飼いにしてきた次男が、公然と反旗を翻したのだ。
狼狽した義母は、救いを求めるように座卓の向かい側へと線をらせた。彼女がこの、もっとも誇らしく、もっとも逆らえない権威として崇め奉ってきたへ。
「美紀さん!」
義母の声が、すがるように裏返った。
「美紀さん、聞いてたでしょう?! あんたはをた、最にのいいよ! 筋の通らないことは番よく分かるはずだわ! この子たちの非常識を、あんたのその派なから、ガツンと叱ってやってちょうだい!」
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義母はを乗りし、美紀さんのを取ろうとした。
その瞬。
パチン、と乾いた音が座敷に響いた。
美紀さんが、に持っていた塗り箸を、正確に箸置きのへ置いた音だった。微だにせず、乱れもない。極めて静かで、それゆえに圧倒な威圧を放つ所作だった。
美紀さんはゆっくりと顔をげた。その徹な線が、義母のすがるような顔を真っ直ぐに射抜いた。
「お義母さん」
氷柱を突きてるような、く澄んだ声だった。
「私の学歴を使って、織さんを黙らせようとするのは、もうやめてください」
義母の息が、喉の奥で止まった。
「……え?」
「私が京学をたのは、私自が努力して学問を修めた結果です。誰かの尊厳を踏みにじり、無償の労働をいるための凶器にするためではありません」
美紀さんは言言、言葉のみを噛み締めるように紡ぎした。
「織さんが、このの製造ラインを守り、顧客の信用を維持してきたのは、彼女が現監督として培ってきた度な技術と責任によるものです。……なぜお義母さんは、そのつの尊い努力を勝に秤にかけ、方を方を殴るための具に仕てげたのですか?」
義母の顔から、急速に血の気が引いていくのが分かった。唇が刻みに震え、言葉がてこない。
「そ、それは……美紀さんをてようとって……男の嫁だから……」
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「私をてる?」
美紀さんの元に、酷な嘲笑が浮かんだ。
「笑わせないでください。お義母さんがてていたのは私じゃない。ご自分のっぺらい見栄でしょう? 『卒の嫁を持った誇らしい姑』という虚飾の仮面を被りたかっただけよ」
美紀さんは座卓に置いたメモ用を、ツツッと指先で義母のへ押しした。
「、私が末の伝いを申した、お義母さんは何と仰いました? 『織がプライドを傷つけられるから来るな』と私に嘘をつき、織さんには『美紀は台所仕事を見している』と吹き込んだ。……違いますか?」
義母の目が、恐怖に見かれた。
「な、なんで……それを……」
「答えわせをしたからですよ。私と織さんでね」
美紀さんの声には、容赦のかけらもなかった。
「お互いに信を植え付け、会話を遮断し、私をのの飾りにし、織さんを作業の奴隷にする。そうやってを分断していれば、ご自分の都のいい嘘が永にバレないとでもっていたのですか? ……性を軽んじるのも概にしなさい」
性を軽んじるのも、概にしなさい。
卒の男嫁から放たれた、もっとも痛烈で、もっとも逃げのない宣告だった。
義母の肩が激しく波打った。顔は真っ赤に鬱血し、額に脂汗が滲みている。彼女がをかけて築きげてきた『学歴による序列』と『男教の権威』が、その頂点に君臨していたはずの男嫁自のによって、っ端微に砕されたのだ。