"十八万円を浮かせたい義母の計算" 第12話
「答えわせ……ですか」
私は、古い純喫茶の真鍮ランプを見つめながら呟いた。琥珀の灯りが、美紀さんの黒い瞳の奥に鋭く反射している。
「ええ。お義母さんがこれまで、都よく切り貼りして私たちに見せてきた物語を、すべてのに引きずりすのよ」
美紀さんは元のブレンドコーヒーに線を落とした。湯気はすでに消えり、黒い面が静かに静止している。
「織さん、元旦が過ぎたら、母で親族の会があるでしょう。お義母さんから聡史さんに連絡が入っているはずよ」
「……ええ。昨、LINEが来ました。『末はき違いがあったけれど、しいを迎えたんだから、に流してみんなで顔をわせましょう』って」
「に流す、ね。加害者が番使いたがる便利な言葉だわ」
美紀さんはバッグから枚のメモ用を取りし、ボールペンをらせた。
「お義母さんの狙いはよ。正志と聡史さんを方につけて、親族の『』という同調圧力を利用し、あなたを再びあの作業に縛り付けること。今失敗した菜の損失を取り戻すために、来の末の無償労働をそので約束させる気だわ」
「そうでしょうね。お義母さんのです」
「だから、くのよ。逃げずに、で」
美紀さんは顔をげ、私を真っ直ぐに見据えた。その瞳には、度も見せたことのなかった、徹なまでの戦闘志が宿っていた。
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「正面から受けてって、そので息の根を止める。度と私たちを利用できないように」
晦の夜、自宅のマンションに戻ると、部のはひんやりとえ切っていた。
聡史はまだ帰っていなかった。母の残務処理か、あるいは母親の嫌取りに追われているのだろう。玄関に脱ぎ捨てられた靴もない静まり返った空が、今の私には酷くよかった。
私はいシャワーを浴び、作業で荒れたにたっぷりと保湿クリームを塗り込んだ。ひび割れた指先に布絆創膏を巻きながら、リビングのソファにく腰掛ける。
元のスマートフォンを見る。画面には、数に美紀さんから送られてきたいメッセージが表示されていた。
『織さん、もうつだけ伝えておきたいことがあるの。、しだけ話できるかしら』
翌、の午。え切った元旦の陽がリビングのフローリングをく照らす、美紀さんからの着信が入った。
「けましておめでとう、織さん」
「おめでとうございます、お義姉さん」
美紀さんの声は、昨夜よりもしだけ柔らかかった。受話の向こうから、くでるの微かな音が聞こえる。実の喧騒かられた、どこかの静かな所にいるようだった。
「織さん。私ね、昨夜、正志さんに全部話したの」
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「正志さんに……ですか」
「ええ。私がどれだけあので『卒の男嫁』という板を押し付けられて息が詰まっていたか。そして、お義母さんが私とあなたので、どれほど卑劣な嘘を繰り返していたかをね」
受話器を握るに、自然と力が入る。
「正志さんは、何と?」
「最初は信じられないって顔をしていたわ。『母さんがそんな悪恵を働かせるはずがない』『何かの誤解だろ』って。男のって、自分の母親が狡猾な加害者であることを認めるのを極端に怖がるものね」
美紀さんの声に、微かな自嘲が混ざる。
「だから、事実だけを並べて突きつけたわ。私が伝いを申した付と、お義母さんに断られたの発言。そして、あなたがで背負わされていた作業量の異常性。すべてを系列で論理に説したら、正志は言葉を失って、最はを抱えて黙り込んだわ」
「……正志さんは、どうするつもりなんでしょう」
「あのは、ずっと逃げてきたのよ。男だからと周囲に持ちげられ、京で体裁のいい仕事をして、実の臭い問題からは目を背けていた。でも、もう逃げはないと分かったはずよ。の会、正志はを挟まない。挟ませないわ」
美紀さんはそこで度言葉を切り、しだけ声を潜めた。
「それからね、織さん。私、自分の仕事を変えようとっているの」
を疑った。
「仕事を……変える?」
「ええ。今のシンクタンクでの研究職かられて、方自治体の教育現を支援する非営利の政策支援団体へ移籍する準備をめているの。