"十八万円を浮かせたい義母の計算" 第8話
『織さんと私が、丹精込めて漬けました』ってね」
喉がカラカラに乾いていくのが分かった。
丹精込めて。織さんと私が。
義母がやったことといえば、作業に顔をして「もっと塩を利かせなさいよ」と先だけで指図し、来がった樽にのラベルシールを貼ることだけだった。にを浸したことも、百キロのを腰を痛めながら積みろしたことも、度たりともない。
「私はね、織さんがお義父さんの遺したを自分ので守ることに誇りを持っていて、そこに部のである私がにをすのは失礼なんだとい込んでいたのよ」
「……部の、ですか」
「そうよ。私は男の嫁だけれど、普段は京にいて、の経営には銭も資していないし、汗も流していない。だから、お盆や正に帰っても、織さんが仕切っている領域には踏み込まないのが礼儀であり、お互いの領分を守ることなんだと信じていた」
美紀さんの声に、わずかな自嘲が混ざった。
「でも、それは私の傲な『干渉』だったわ。確認することを怠って、見たい現実だけを見ていたのよ。現のがどれだけの負荷を背負わされているかも調べずに、ただ『任せている』という美名のもとに放置していた。……政策の現でも、番やってはいけない無責任な態度よ」
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私は洗面台の鏡に映る自分の顔を見た。朝方の血の気の引いた青い顔から、しずつ体温が戻ってきている。
「お義姉さん。今の漬物は、もうにいませんよ」
私はあえて、現実のタイムリミットを突きつけた。
「由美さんたち臨パートは、完全にを引きました。私が組んだシフト表とマニュアルがない限り、彼女たちはきません。今に塩を振らなければ、玉の菜はただのゴミになります」
「分かっているわ。だから正志さんと聡史さんには、今すぐ軽トラックを借りてこさせているところよ」
「軽トラック?」
「予約客件のうち、引き渡しを断る件に話をかけさせて、お詫びと代の返対応。残りの件分については、隣の契約農にをげて、すでに漬け込みが終わっている完成品の浅漬けを正規の卸値で買い取って融通してもらうわ。の利益は完全に赤字になるけれど、お義父さんの代からの信用に穴をけるよりはマシでしょう」
淀みのない、完璧なダメージコントロールだった。
「お義母さんは、なんて?」
「『そんなことをしたら今の儲けがなくなる』って泣き叫んでいたけれど、正志さんから『なら母さんが今すぐあの菜をで全部漬けろ』と言われて、黙ったわ」
私はさく息を吐いた。
万円の件費をケチろうとした結果が、所からの緊急買い付けによる万円以の持ちしと、予約の半分以のキャンセル。
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目先の利益に目が眩み、現を蹴にした経営者が辿る、絵に描いたような転落劇だった。
「織さん」
美紀さんが言った。
「晦の夕方、しだけをくれないかしら。正志さんと聡史さん抜きで、だけで会いたい所があるの」
「だけで?」
「ええ。お義母さんのフィルターを通さない、私たちの本当の話をするべきだとうのよ」
私は元のマグカップを見つめた。め切ったほうじ茶の表面に、部の灯りが静かに揺れている。
「……分かりました。所を指定してください」
通話を切ると、部のには再びい静寂が戻ってきた。
スマートフォンの画面が暗くなる。私はく息を吐きし、ちがってキッチンへ向かった。蔵庫をけ、自分のためだけに昼の準備を始める。
ぶりに、誰の指図も受けない、静かで自由な末の空気が流れていた。
翌、からにかけて、夫の聡史からは分おきに泣き言のLINEが届いた。
『菜のを落とすだけで腰が砕けそうなんだけど、これどうやって洗うの?』『包丁の刃が全然入らない。芯ってどこまで削るんだ?』『由美さんに話したけど「さんのお宅の仕事はお受けできません」ってガチャ切りされた。織から頼んでくれよ』『母さんが痛いって寝込んじゃった。頼むから顔だけでもしてくれ』