"十八万円を浮かせたい義母の計算" 第4話
「では、賢いお義姉さんと仲良く暮らしてください」
「は……? あ、あんた、何を……」
義母の唇が震えている。私は義母の言葉を待たずに、美紀さんの方へ線を向けた。
美紀さんは、捲りげたセーターの袖を掴んだまま、直していた。その瞳には、恐怖ではなく、信じられないものを見たというようない衝撃が浮かんでいた。
「お義姉さん」
私は平坦な声で言った。
「あなたにっているわけじゃありません。そして、これはあなたが肩代わりすべき仕事でもない」
それだけを告げると、私は度も振り返らずに勝へ向かった。
「おい、織! 待てよ! 織!」
背から聡史の慌てふためいた音が追いかけてくる。作業をて、氷の張った砂利を踏みしめながら駐へ向かう私の腕を、聡史が掴もうとしてきた。私はそのを、現で危険を回避するの作で、酷に払い落とした。
「おい、冗談だろ?! 今おがてったら、あの玉どうすんだよ!」
聡史の顔は青ざめ、額には脂汗が滲んでいた。
「予約客が来るんだぞ?! にはみんな取りに来るんだ! 親父の代からの常連さんばっかりなんだぞ! に穴ける気か?!」
私はの鍵をポケットからし、運転席のドアロックを解除した。そして、ドアをけるに、夫の顔をたく見ろした。
「それを考えるのは、おのでしょう」
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「な……っ」
「私はこのの従業員じゃない。役員でもない。料細すらもらったことがない。ただの『次男の嫁』よ」
「母さんだって悪気があって言ったわけじゃ――」
「母さんが困るだろって、言いたいんでしょう?」
私は夫の言葉を遮った。
「じゃあ、私は?」
聡史の唇が半きになり、言葉が途切れた。
「分の私のと、今の私の尊厳は、誰が補償してくれるの?」
夫は何も答えられなかった。ただ、たい朝のに吹かれて、けなく線を泳がせるだけだった。
私は運転席に乗り込み、ドアを閉めた。鍵を回し、アクセルを踏む。バックミラーので、ち尽くす夫の姿が、ねげた砂利の煙の向こうにさくざかっていった。
自宅のマンションに戻ったのは、午だった。玄関をけると、昨までと変わらない静かな空気が漂っていた。
リビングのをつけ、湯器のスイッチを入れる。キッチンにち、やかんにをかけた。
洗面台の鏡を見る。化粧気のない顔、乾燥して荒れた唇。そして、両を胸のに掲げてみた。
指先が赤く腫れがり、関節の皮膚がパックリとひび割れていた。に現をれてから、私のはずっとこうだった。真ので菜を洗い、塩を揉み込むたび、ひび割れた傷に塩分が染み込んで、焼けるような痛みがる。夜、ハンドクリームを塗りたくって綿の袋をして寝ても、翌朝にはまたにを突っ込む。
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『織ちゃんはがくて助かるわあ』
義母のあの猫なで声が、脳裏に蘇る。あれは謝ではなかった。タダで使える都のいいを、嫌よくかすための油差しに過ぎなかったのだ。
やかんで湯が沸く甲い笛の音が響いた。私はほうじ茶のティーバッグをマグカップに放り込み、湯を注いだ。ちる湯気を吸い込みながら、ダイニングテーブルに座る。
温かいカップを両で包み込むと、凍りついていた皮膚がチクチクと痛み、やがてじんわりと血が巡り始めた。
私はだけ茶をみ、息をえた。それから、部の隅に置いてあった仕事用のリュックから、ノートパソコンを取りした。ゼネコン代から使っている、頑丈さだけが取り柄の古いThinkPadだ。
源を入れ、指をかす。画面がちがるまでの数秒、私のは驚くほど澄み切っていた。
泣き寝入りする気は毛ない。かといって、義母に鳴り込んでをぶちまける気もなかった。そんなことをしても、「嫁が気に暴れた」という被害者面を許すだけだ。
相を最も残酷に、言い逃れの余なく追い詰める方法は、つしかない。
『圧倒な事実と数字』を突きつけることだ。
私はスプレッドシートをちげた。画面の部に、無質な朝体でタイトルを打ち込む。
【末菜浅漬け製造程表および業務引き継ぎ】