"十八万円を浮かせたい義母の計算" 第3話
美紀さんは困惑したように眉を寄せ、私の元と菜のを交互に見比べた。
義母はふん、とあからさまにを鳴らした。そして、作業着にを包み、靴を履いた私の全を、からまで値踏みするように睨みつけた。
「いいのよ、この子は昔から現仕事で鍛えてるんだから。寒さにも慣れてるし、領だっていいんだから」
そして、義母は吐き捨てるように、その言葉を放った。
「卒の男嫁に、こんな臭いことさせられないでしょ? あんたが全部やって」
作業の空気が、完全に凍りついた。
換気扇のカラカラという回転音だけが、障りに響いている。
卒の男嫁。あんたが全部やって。
私の目ので、何かがプツリと切れる音がした。だがそれは、りによる暴発ではなかった。の呪縛が、あまりにも劣な言によって、瞬で消滅した音だった。
。義父が脳梗塞で倒れた、夫の聡史は私のでをげた。
『織、頼む。だけでいいから、うちのを伝ってくれ。親父が倒れて、母さんじゃ注文も捌けないんだ。現の管理ができるおなら、のラインみたいに段取りを組めるだろ? でを畳むか続けるか決めるから』
当の私は、堅ゼネコンで施管理をしていた。にまみれ、職たちと鳴りい、図面を握りしめて程を守する。
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過酷だったが、誇りを持っていた。所への昇格試験も控えていた。
それを、夫の『だけ』という言葉を信じて、休職し、やがて退職した。
が過ぎると、義母は「まだ常連さんが納得しない」と言った。目、義父の容態が悪化した。目、聡史は「今やめたら親父がショックを受ける」と泣きついた。目、義父がくなった、義母は「これが父親の遺しただ、見捨てるのか」となじった。
そうして目。私の施管理のスキルは、無償のシフト組みと庫管理にすり替えられた。私のは、「族なんだから」という便利な言葉で、円の価値も認められないまま奪われ続けた。
そして今、この女は何と言った?
『卒の男嫁に、こんな臭いことさせられない』。
学歴の無で、の皮膚の耐寒温度が変わるとでもっているのだろうか。を使うは尊く、現でをかすはを啜って当然だと、この女は本気で信じているのだ。
私はゆっくりと、夫の聡史を見た。
聡史は目を泳がせ、気まずそうに自分の爪を見つめていた。そして、蚊の鳴くような声で言った。
「……織、とりあえず今分だけでもさ。予約もあることだし、な? 話なら、夜に母で聞くからさ」
助け舟ですらない。ただそのをやり過ごし、妻を贄に捧げて自分の寧を買うための、最も卑劣な妥協だった。
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私は何も言わなかった。鳴る気も、涙を流す気も、微も湧いてこなかった。
臓の鼓が、驚くほど静かに、力く脈打っているのが分かった。
私は無言のまま、作業の央へと歩きした。コンクリートののに置かれた、青いポリエチレン製の型タライ。リットル入る業務用の角型タライだ。昨夜のうちに私がを落とし、湯消毒を済ませて、気を完全に切って伏せてあった。
私はタライの縁に両をかけた。
「ちょっと、織さん? 何突っってるの、くひねりなさいよ」
背から義母の指図がぶ。
私はタライの底にをかけ、腰の力を使って、気にそれを引き倒した。
バアアアアアン――ッ!
乾いた巨な破裂音が、トタン根の作業いっぱいに轟いた。のポリエチレンがコンクリートのに叩きつけられ、凄まじい衝撃波となって空気を震わせた。
義母が「ひっ!」と喉を引きつらせてび退いた。聡史が腰を抜かしかけて壁にをつく。正志さんも美紀さんも、息を呑んでちすくんでいた。
私は腰に巻いていた耐油ゴムエプロンの紐をほどいた。首からし、綺麗につに折って、ひっくり返ったタライのに静かに置いた。続いて、両のゴム袋をし、そのにねた。
指先はえ切っていたが、震えは完全に止まっていた。
私は顔をげ、呆然とをけている義母の目を、真っ直ぐに見据えた。