"夫の「俺の奢り」は、私のカードでした" 第13話
苗の狂乱した嗚咽だけが、畳に吸い込まれていく。
やがて、苗は膝ちのまま、うようにして私の元へと擦り寄ってきた。着物の裾を乱し、涙とで濡れた顔で、私のスーツの裾を掴もうとする。
「礼子さん……! 礼子さん、お願い……!」苗の掠れた声が、すがるように響く。
「私が悪かったわ……! あなたに黙っていたこと、本当に謝るわ! だから……だから正斗を許してあげて! 会社の処分を取りげて! あの子から役職を取らないで……! あなたが川さんに言ってくれれば、元に戻せるでしょう!?」
私は、掴まれそうになったスーツの裾を、わずかに引いてかわした。苗のが、空しく畳を引っ掻く。
私はややかに見ろした。そこに広がっていたのは、れな老母の姿ではない。最まで自分の保と、崩れかけた虚栄にしがみつき、嫁を都のいい具として使い倒そうとする、醜い利己主義そのものだった。
「お義母様」私の声は、の氷のように澄み渡っていた。
「勘違いなさらないでください」
苗が、すがるような目で私を見げる。
「あなたが息子さんに裏切られたことと、私があなたたち全員に裏切られたことは、まったく別の問題です」
苗の呼吸が止まる。
「あなたは息子を守ったつもりだったのでしょう。でも、私を裏切って仲れにしたのも、息子さんにいいように利用されたのも、すべてあなた自が選んだ結果です」
広告
「礼子さん……そんなこと言わないで……! 私たち、族じゃないの……!」
「族?」私はく微笑んだ。温かみの欠片もない笑みだった。
「都のいいだけ『族』という言葉を使わないでください。私の信用カードを無断で使い、を連れた旅から私を締めした、あなたたちののに私の居所などありませんでした」
私はブリーフケースから、もう組の類を取りした。緑のラインが入った、公な用。そして、弁護士の記名押印がなされた婚協議。
「藤沢正斗さん」私は夫に向き直った。
正斗が、ビクリと肩をねさせる。
「あなたに対する個な請求です。バルセロナであなたが勝に決済し、私が本会員としてて替えて支払ったカード利用代、百万円の全額返還請求。および、貞為に伴う慰謝料百万円の請求です」
「な……百万……!?」
「会社の監査委員会は、正午の取締役会において、あなたの代表権剥奪および取締役解任議を決議します。正流用された残額百万円についても、会社からあなた個へ損害賠償請求訴訟が提起されます」
正斗の顔が、絶望に歪んだ。位も、名誉も、も、そしても。彼が自分の力だと過信していたすべてが、砂ののように元から崩落していく。
「ふざけんな……! 誰のおかげで役員でいられたとってんだ!」
広告
正斗が最の悪あがきのように吠えた。
「おが勝にカードを止めなきゃ、こんな騒ぎにならなかったんだ! 藤沢の恥を晒したのはおだろ!」
私はちがった。見ろす私の瞳には、もはや片のりすら残っていなかった。ただ、傍の汚物を見るような、絶対の無関。
「私がカードを止めたから追い詰められたのではありません」
私は婚届と請求を、正斗の目のの畳のに叩きつけた。
「あなたが、自分の器以の見栄を張ったから破滅したのです」
背を向け、歩を踏みす。
「の取締役会でお会いしましょう、藤沢本部。……あとのゴミ掃除は、どうぞご自の親子で仲良く引き受けてください」
「礼子! 待て! 礼子ッ――!」
背からがる正斗の絶叫と、苗の狂ったような泣き声を、私は度も振り返ることなく置きりにした。襖を閉めた瞬、張り詰めていた空気がすっと消えり、澄んだのが私の頬を優しく撫でた。
翌、正午。本社ビルの会議には、張り詰めた沈黙が横たわっていた。
方形のなマホガニーテーブルを囲むのは、社取締役名、常勤監査役、そして名誉会である義父・耕造。座からしれた席に、正斗が座っていた。昨夜と同じスーツのままなのか、襟元はよれ、ネクタイは斜めに歪んでいる。その顔は気で、虚空を睨みつけるように線を泳がせていた。