"夫の親孝行は、私の持ち家でした" 第2話
午半、仕事を終えて帰につく。 最寄り駅から宅を歩きながら、夕に浮かぶ自宅のかりを見げた。 階の窓からは温かなが漏れている。 だが、そのを見ても、かつてのようならぎは片も湧いてこなかった。
玄関のドアをけると、独特の煮物の匂いとテレビの甲い笑い声が漂ってきた。
「ただいま戻りました」
靴を脱ぎながら声をかけると、リビングの引き戸がき、義母の子が顔をした。 今で歳。 腰も曲がっておらず、も達者で、所の老クラブの役員までこなしている。
「あら、真由美さん。遅かったのね」
子はそう言いながら、元の湯呑みを揺らした。
「修はまだ帰ってこないわよ。会社で事な会議があるんですって。男が役職に就くと、本当に忙しくて変ねえ」
「ええ、お疲れ様です。お義母さん、の調子はいかがですか」
平静を装いながら尋ねると、子はあからさまに眉をひそめ、げさに膝をさすってみせた。
「それがねえ、やっぱりこのの階段が急で、昼に階の物干しへくだけで膝が笑っちゃうのよ。のは段差がなかったから、ここは本当に寄り泣かせの造りだわ」
喉の奥で、カチリとたいスイッチが入る音がした。
ヶ、子が暮らしの実の呂でを滑らせたと言いしたのが始まりだった。
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幸い骨折も打撲もなく無傷だったが、修が「にしておくのは危ない」「男のに引き取るのが筋だ」と騒ぎて、転がり込んできたのだ。 最初は「しのだけ厄介になるわね」と殊勝な顔をしていた。
だが、ヶも経つと態度は豹変した。 キッチンの調料の配置を勝に変え、呂の湯加減に文句をつけ、掃除の順にケチをつける。 そしてここ最は、やたらとの「古さ」と「便さ」をにするようになっていた。
「そうですか。ご便なら、無理に階へがらず、階の客でお過ごしになればいいといますが」
「そういうわけにもいかないでしょう。洗濯物はに当てなきゃ気が済まない質なんだから。ああ、もっとバリアフリーのき届いた、広い平かエレベーター付きのまいなら、こんな苦労もしなくて済むのにねえ」
子は独り言のように呟きながら、リビングのテレビへと線を戻した。
言葉の端々に滲む、計算された当てつけ。 今朝の産からの話が、ので鮮に繋がっていく。 このはただ愚痴を言っているのではない。 を買い替えさせるための空気を、図に作りしているのだ。
着替えを済ませ、夕の支度を始めていると、夜の過ぎに玄関の鍵がく音がした。
「おう、ただいま!」
嫌な声とともに、修がリビングに入ってきた。
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にはコンビニのビニール袋を提げ、顔には微かにアルコールの赤みが差している。
「修、お帰り。遅かったじゃないの」
子がちがり、甲斐甲斐しく夫のスーツの着を受け取る。 修はネクタイを緩めながら、ダイニングの子にどっかりと腰をろした。
「いやあ、取引先との打ちわせが引いちゃってさ。真由美、飯、まだあるか?」
「ええ、温めますね」
私は淡々と噌汁の鍋にをつけた。 りのを切滲ませず、いつもの夕の配膳をえる。
「今もお疲れ様でした。最、お仕事が順調そうね」
「まあな。俺ももうだからな。課としての責任もあるし、社内でも々ときな案件を任されてるんだよ。男として、族にもそれなりの暮らしをさせてやりたいしな」
夫は胸を張り、ビールを喉に流し込んだ。 族に、それなりの暮らし。 その言葉の輪郭を、私はややかに観察する。
「お義母さんがね、最階段の登りりが辛そうよ」
私が何気ない調でを向けると、修は待ってましたとばかりにを乗りしてきた。
「ああ、母さんも歳だからな。やっぱり築の戸建ては、線が寄りに優しくないんだよ。廊も狭いし、段差もいしな」
「そうね。だから、お義母さんが暮らしやすいように、元の実をリフォームして戻られるか、すりを付ける事を検討しましょうか」
私の返答に、修の眉が瞬だけ引きつった。