"花嫁が逃げた祝言で、毒を盛られた若旦那が選んだ女中" 第8話
「へえ、承いたしました」
それからというもの、権蔵は隙さえあれば母の周囲をうろつき回り、お染の挙投を執拗に監した。
お染はさらに慎かつ胆にくことを求められた。権蔵が毒入りの薬を持ってくると、あえてその目ので薬を源の元へと運び、唇を濡らすだけの巧妙な仕を見せて権蔵がちるのを待った。
そして権蔵の気配が完全に消えたのを見計らい、猛毒の液体を隠し持った器へと移し替え、別の所で隠れて煎じておいた本物の解毒薬を夫にませたのである。
そんなある夜、お染が暗い台所で薬を細かく刻んでいると、背から宇兵が音もなくづいてきた。辺りを見回して誰もいないことを確かめると、お染のすぐ傍らに腰をろし、消え入りそうない声でをいた。
「お染よ、おにどうしても話しておかねばならぬ事なことがある」
お染は聞こえないふりをしたまま、黙々と薬を刻み続けた。
「おが若旦様の命を救っていることを、この老いぼれの目は誤魔化せぬぞ。毎夜の薬をすり替えていることも、こうしてで別の薬を煎じていることも、わしは全てっておるのだ」
その言葉を聞いた瞬、お染のがぴたりと止まり、臓が激しく波打った。しかし、宇兵が源をが子のように見守ってきた忠義者であることをいし、すぐに呼吸をえた。
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「驚くことはない。おを責めたり通報したりしようというのではないのだ」
宇兵の声は包み込むように温かかった。
「わしはこのお敷で涯を過ごしてきた。若旦様のご両親が流り病で同にくなられた、胸が張り裂けんばかりであった。それなのに今また唯の跡取りである若旦様までがあのような無残な姿になられ、どうして黙って見ていられようか」
宇兵はくいため息をついた。
「わしは当初から、庄兵様が蔵の財産や当主の座を欲そうに睨みつける暗い目つきを怪しんでおった。だが、老いて力なき1の奉公に何ができよう。確たる証拠もなしに、おへ庄兵様を訴えることなどできぬではないか」
宇兵はお染のにそっと温かいをねた。
「お染よ、わしだけは信じてくれ。この広いお敷ので若旦様を本当にお守りできるのは、おとわしの2だけなのだ。私たちが力をわせねばならぬ」
お染は激しく躊躇した。この2、誰1として信用せずを閉ざすことだけが命を繋ぐ唯のだと信じてきたが、権蔵の監がにに執拗になる、1ので源を守り続けるには限界がづいていた。
い沈黙の末、お染は覚悟を決めてゆっくりと顔をげ、宇兵の目を真っ直ぐに見つめた。
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2誰のでも見せたことのない、聡でいを湛えた差しに、宇兵は目を丸くした。
お染は言も声を発さず、代わりに竈ので黒くなった差し指を使い、台所のに丁寧な文字をき始めた。
『若旦様は毒を盛られています。毎夜運ばれてくる薬に、恐ろしい毒が混ぜられているのです』
点の曇りもない気品に満ちた武や名の跡を見て、宇兵は息をのみ、やがて皺い目から粒の涙をこぼして両を震わせた。
「やはり、やはりそうであったか。おがいなければ、若旦様はとうにこの世をっておられただろう。しかし、おは体何者なのだ。ただの者とはえぬが」
お染は再びに滑らかな文字をらせた。
『私の素性については、どうかお尋ねにならないでください。私はただ若旦様の命をお救いしたいだけなのです。もし私の正体が公になれば、私も若旦様もさらなる危険に晒されることになります』
宇兵は何度もく頷き、お染のを両で包み込んだ。
「わかった、もう何も聞かぬ。おにどのような過や事があろうとも、若旦様の命の恩であることに変わりはない。この老いぼれの命、おのために使おう」
こうして初めて本物の方を得たお染は、宇兵と額を寄せい、これからいかにして源を守り抜くか具体な方策を話しった。