"白いメットと二十二年の嘘" 第10話
あの瞬、あなたが私に向けたのは、罪悪じゃなかった。『なぜバレたんだ』という保と恐怖の目だけだった」
真奈美はコートを羽織り、さなハンドバッグを持った。
「の朝、引っ越し業者が来ます。鍵はポストに入れておきますから、売却の続きは産さんと弁護士の先とめてください。……さようなら」
「真奈美! 真奈美ーーっ!」
背で絶叫する浩之の声を置きりにし、真奈美は玄関のドアをけた。
にると、たいの匂いが腔をくすぐった。夜の帳がりた宅のを、真奈美は度も振り返ることなく、を向いて歩きした。
に入り、はクリスマスと末の慌ただしさに包まれ始めていた。
真奈美の居は、駅から徒歩分ほどの所にある、築のさな階建てアパートだった。
取りは2DK。かつての広々とした戸建てに比べれば半分以の広さだが、向きのきな窓からは柔らかな差しが差し込み、部のはいつもるかった。
には真奈美が自分で選んだ成りのラグを敷き、さなダイニングテーブルと、脚の製チェアを置いた。壁には、以から飾りたいとっていたさな植物のタペストリーを掛けた。誰の好みにわせる必もない、自分がよいとえるものだけに囲まれた空。
広告
息子の陸は、学のキャンパスにい学寮に入ったが、週末にはよくアパートに顔をしてくれた。
「母さん、メシいに来た」
曜の昼がり、陸が気軽な取りでやってきた。
「はいはい。今は豚の角煮を作ったわよ。根もたっぷり入れてあるから」
「やった、母さんの角煮、久しぶりだ」
陸はテーブルにつき、美しそうに湯気をてる角煮を頬張った。
「旨い! やっぱ実の……いや、母さんの飯が番だな」
「よく噛んでべなさいよ」
真奈美は笑いながら、自分のお茶をすすった。
「あ、そうそう」
陸が箸を止め、ポケットからスマホを取りした。
「親父から先週、LINEが来たよ」
「……そう」
「『陸、元気にしているか。親父は今、潟の営業所で暮らしを始めた。おには本当にすまないことをしたとっている。学費の補填分は毎必ず振り込むから、しっかり勉しろよ』だってさ」
「返信、したの?」
「言だけな。『おの振り込みは弁護士を通して約束通りお願いします。母さんには度と連絡しないでください』って送って、ブロックした」
陸の淡々とした調に、真奈美は胸の奥がしだけ痛んだ。父親を完全に切り捨てさせたことに対する、母親としての微かな罪悪。
だが、陸は真奈美のその表を察したように、ふっと優しく微笑んだ。
「母さん、気にすんなよ。俺はもう子供じゃないんだから。
広告
親父が自分のやったことのツケを払うのは当然だし、俺は母さんが笑って暮らしてくれれば、それが番嬉しいんだからさ」
「……ありがとう、陸」
「それより母さん、しい仕事の方はどうなの?」
「うん。くのフラワーショップで週、働き始めたの。昔からおを扱う仕事、してみたかったから。覚えることがくて変だけど、すごく楽しいわ」
「へえ、いいじゃん。今度、美咲に買う、母さんのくわ」
「ふふ、社員割引利かせてあげるわね」
笑い声が、午のるい部に響き渡った。
事を終えた陸を駅まで見送った、真奈美は、くの公園へとを向けた。
のはたかったが、空はどこまでも青く澄み渡っていた。
杏並はすっかり葉を落とし、の陽が舗装された歩にいを落としている。
ふと、くのから、野太い排気音を響かせてる台の型バイクの音が聞こえてきた。
真奈美はち止まり、その音を目で追った。
黒いジャケットを着たライダーが、颯爽と交差点を曲がっていく。そのヘルメットのシールドの奥にある表は見えない。
かつて、あの背にしがみついていた々のことが、まるでい世の来事のようにいされた。
の、野のワインディングロードをり抜けたの寒さ。
ガレージの奥に隠されていた、品のパールホワイトのヘルメット。
モスバーガーのボックス席で、凍りついた浩之の横顔。