"正月の料亭で仲居に渡された「逃げてください」の紙切れ" 第18話
度の請求業務をテキパキとこなし、輩に指示をす。自分の居所がここにあるという確かな応えが、誇らしかった。
義母の活は、崩壊などしていなかった。
支援1の認定がり、週に回、リハビリ特化型のデイサービスに通い始めた。送迎がのまで迎えに来て、専のスタッフが笑顔で義母をサポートしてくれる。週に度はヘルパーが入り、いゴミしや回りの掃除をこなしてくれている。義母の自己負担額は、にわずか千円ほどだった。
義母は最初こそ「にに入られるのは嫌だ」と愚痴をこぼしていたらしいが、デイサービスで同代の友とお茶をむのが楽しくなったのか、今では嫌よく通っているという。
方で、夫と義姉は、かつて私が背負っていた現実のみに叩きのめされていた。
夫はに回、を取得して義母の通院に付き添っている。病院のい待ちに耐え、処方箋を薬局にし、義母の細かな言を聞き続けるだけで、帰宅する頃には青息吐息だった。「こんなに待たされるとはわなかった」「仕事だな」と音を吐く夫に、私は「そうね、私はそれをでやってたのよ」とだけ返した。
義姉も、に度は隣町から幹線で通い、実の片付けや買いしをこなす羽目になった。
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交通費とを削られる痛みををもってり、私に対する遜な態度は完全に消え失せていた。
誰かが無理をして犠牲になる必はなかったのだ。正当な対価を払い、公な制度を使い、族がそれぞれの分相応の責任を負う。ただそれだけの当たりのことが、私の「拒絶」によって、ようやく実現したのだ。
半ばの曜。柔らかいの差しが差し込むリビングで、娘の音がバッグを持って部からてきた。
「お母さん! 今、駅の映画館で観たい映画があるんだけど、緒にかない?」
「え? 映画?」
私は元に広げていた帳から顔をげた。
その瞬、の奥で、の条件反射が作しかけた。――今、お義母さんの病院の予約はなかったかしら。――買いしに連れてかなくて丈夫だったかしら。
だが、私の指先は、帳のページのでピタリと止まった。
確認する必など、どこにもない。今は曜。夫が実へき、義母の様子を見る当番のだ。私のには、何の義務も、何の呪縛も結びついていない。
私は帳を静かに閉じ、顔をげて娘に笑いかけた。
「いいわね。こう」
「やった! チケット予約しちゃうね!」
音が弾むような声でスマートフォンを操作し始める。
私はちがり、かける準備をするためにバッグをけた。財布を取りそうとした指先に、内ポケットの奥で、さく折り畳まれたい触が触れた。
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取りしてみる。それは、あのからずっと財布の奥に忍ばせていた、料亭の箸袋の裏だった。
し黄ばみ、角が擦り切れたその片をく。
『逃げてください』
ボールペンで殴りきされた、あの仲居さんの文字。
あの、私は料亭から逃げさなかった。けれど今なら、あの言葉の本当のがわかる。
私が逃げさなければならなかったのは、赤坂の料亭の部などではなかった。
「嫁だから」「族だから」という美しい言葉で私の首を絞め、私のを勝に使い捨てようとしていた、あの歪んだ世界そのものからだったのだ。
「お母さん、準備できたー?」
玄関から、音のるい声が呼んでいる。
「今くわ」
私は片を丁寧に折り直し、財布の奥へ戻した。もう度と、誰かに自分のを差しさないための、私だけのさなお守りとして。
ドアをけると、の眩しいが、私の方をどこまでも真っ直ぐに照らししていた。