"「娘に頼まれたから」深夜に30個の弁当を作る母、私は何も知らなかった" 第1話
義母がシャワーを浴びている、ダイニングテーブルのに置かれたスマホが、く震えてった。
画面には、かけたばかりの夫からの通が表示されている。
『母さん、歩美の母親の件はうまく片づけたよ(笑)』
……は?
が、すぐにはに入ってこなかった。
うまく片づけた?(笑)って何?
ドクン、と臓が嫌な音をててねた。背のあたりから、すうっと血の気が引いていく。
浴からは、規則正しいシャワーの音が響いている。夫は分、「職の輩がトラブルを起こしたから、ちょっと顔をしてくる」と言って、慌ただしくでていったばかりだった。
私の母の件。私の、母。
ここ半のことが、たい濁流のように脳裏を駆け巡る。
「お義母さん、最はで静かに過ごしたいらしいよ」「歩美も仕事が忙しいんだから、あんまり頻繁に話して負担をかけるなよ」
そう言って、私と母の連絡をそれとなく遮ってきたのは夫だった。母に話をかけても、どこか声がく、慮がちに「丈夫だから、あんたは自分の活を事にしなさい」と々に切られてしまう。私はてっきり、母が自した活を楽しんでいるのだと、夫の言葉を信じ込んでいた。
でも、あの文面の軽さは何だ。「処理」とか「片づけた」なんて、のに向ける言葉じゃない。
指先が氷のようにたくなる。
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震えるで自分のスマホを取りし、実の母へ発信ボタンを押した。
コール音が延々と鳴り響く。ない。
もう度かけ直しても、数回のコールの末に留守番話サービスへ切り替わった。
LINEを送る。『お母さん、起きてる? 今、にいる?』既読はつかない。
浴からは、まだジャーッと湯の流れる音が続いている。義母に声をかける余裕なんて、微もなかった。
私はダイニングの子にかけてあったバッグを掴み、のキーを握りしめて、音をてずに玄関をびした。
夜のバイパスをアクセル全でる。ハンドルを握る両のひらに、じっとりとや汗がにじむ。
何かあったのか。事故? 倒れているの?それとも、夫が母のところへ押しかけて、何か残酷なことでも言い放ったのか。
内で、最悪の像ばかりが膨らんで界が滲む。信号待ちのたびにスマホを見るが、母からの返信はない。
分。見慣れた郊の宅に入り、築を超える実のにを滑り込ませた。
から見る限り、階の戸は閉ざされ、玄関の灯りも消えている。ただ、の奥――台所の窓からだけ、青い蛍灯のが漏れていた。
をりた瞬、私はを止めた。
夜のたい空気のに、濃密な匂いがち込めていた。ごま油の焼ける匂い。醤油と砂糖の焦げた匂い。
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そして、量の油で何かを揚げている、苦しい油煙の匂い。
夜の半を過ぎている。暮らしの齢女性が、こんなに換気扇を全力で回して揚物をしている?
嫌な胸騒ぎが、胃の腑を雑巾のように絞りげる。
鍵を鍵穴に差し込み、勢いよくドアをけた。
「お母さん……!」
暗い玄関のに踏み込んだ瞬、異様な景が目にび込んできた。
靴箱の横に、井くまで積みげられた段ボールの。印字されているのは、業務用のプラスチック容器の型番だった。
廊をりでみ、台所の引き戸をガラリとけた。
ち込める気と油の匂いに、わず息が詰まる。そして、そのに広がる景を見て、私はそのに凍りついた。
ダイニングテーブルの、流し台の横、果ては蔵庫ののワゴンにまで。の踏みもないほどに、黒いプラスチックの弁当箱が然と並べられていた。
その数、ざっと見て個以。
ご飯には黒ごまが振られ、卵焼き、きんぴらごぼう、根の煮物、そして揚げたての唐揚げが、つひとつの枠のに際よく収められている。
コンロのには、あせたグレーのエプロンをつけた母がっていた。
には箸。その首には、何にも湿布が貼られ、分いサポーターで固定されている。フライパンから唐揚げを引きげる母の指先は、湯とにさらされ続けたせいか、真っ赤に腫れがっていた。
「……お母さん」
絞りすような私の声に、母がビクッと肩を震わせて振り返った。