みかん小説
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"4000円を頼んだ私に、死んだはずの父から4000万円" 第18話

千万円という途方もない数字ので、実際にいたのは、この数万円と、これからの定期な通院・投薬のための最限の医療信託だけだった。余計な切も、法に触れる曖昧な贈与も、私たちの元には円も残っていない。

病院をると、え切ったの気配を含んだが、私の頬を通り抜けた。母のを引いてタクシーに乗り込む。その背は、退院したばかりだというのに、数週よりもずっとシャンと伸びていた。

常は、何事もなかったかのように戻ってきた。

私はスーパーの惣菜売りで、再びい着にを包み、フライヤーのにっている。ジュワジュワと激しい音をてて揚がるコロッケ。隣でキャベツを刻む佐藤さんと、「今夜の特売、豚バラがいね」ともない言葉を交わす。油の匂いも、ち仕事で痛む腰のみも、すべてがおしい私の現実だった。

あの条理が、に現れることは度となかった。杉浦弁護士を通じて、役員職を解任され、方の関連財団へ事実遷されたと聞いたが、私にはもう関係のない世界の話だった。

悠も、相変わらず目の軽自で町へ通い、油まみれの作業着で帰宅する。卓には、母が作ってくれた筑煮と、特売のもやし炒め。「やっぱりお母さんのは最だな」

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と笑う夫と、「お世辞言っても何もないよ」と毒づく母。何つ贅沢ではないけれど、誰にも脅かされない、絶対な平穏がそこにあった。

季節が巡り、が完全に葉を落としたのある。

私のスマートフォンに、通のショートメッセージが届いた。差は、杉浦弁護士ではなく、見らぬ番号。

画面をくと、く、ぎこちない文章が綴られていた。

『奈。体調のいいに、もし迷惑でなければ、度だけ顔を見せてもらえないだろうか。あなたの勤め先のくまで伺います。断ってくれても構いません。条正隆』

それは、かつてのような命令でも、弁護士を介した格式張った招待状でもなかった。自分の都を押し付けず、相の返答を恐る恐る待つ、ただの老の言葉だった。

私は台所の換気扇を見つめ、しばらく考えた。そして、く返信を打った。

『の午、駅の商の入りでお待ちしています』

翌の午。の陽射しが斜めに差し込む、横浜の桜商。

百の威勢のいい掛け声や、自転のベルの音が響く雑踏のに、そのはっていた。

黒塗りのハイヤーも、SPも、仕ての良いスーツもなかった。量販で売っているようななグレーのダウンジャケットを着て、マフラーを首に巻き、し背を丸めて佇んでいる。

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に握られたの杖が、歩の覚束なさを物語っていた。

「……条さん」

声をかけると、老はハッと息を呑んで振り返った。その顔は、以ホテルで会ったよりもさらに痩せこけていたが、瞳の濁りは消え、驚くほど穏やかなを湛えていた。

「奈……来てくれたのか」

「寒くないですか」

「ああ、丈夫だ。……ここは、いいだな」

正隆は商のアーケードを見渡し、さく息をく染めた。肉からちるコロッケの湯気、買いしの主婦たちの笑い声。この男がを過ごしてきた、豪奢なホテルの静寂とは正反対の、臭いの活の匂い。

「お茶でも、とったんですが……ホテルのラウンジみたいな所は、この辺にはありませんよ」

私がそう言うと、正隆は困ったように眉をげ、ふっと元を緩めた。

「おが普段、べているものがいい。……あるかい?」

私はし迷った、彼を案内した。

駅の改札横にある、古びたちい蕎麦。カウンターだけの狭い内に、汁と醤油の濃い匂いが充満している。昼のピークを過ぎた内に客はなく、私たちは隅の席に並んで腰をろした。

正隆は、プラスチックの券を握りしめ、カウンター越しにてきた百円の『かけ蕎麦』を見つめた。湯気の、刻みネギといかまぼこが枚だけ浮いている。

「いただきます」

震えるで割り箸を割り、老はゆっくりと蕎麦をすすった。い汁をみ込み、喉を鳴らす。

「……うまいな」

ぽつりと漏れたその声に、嘘はなかった。

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