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"妻の浄水器は粗悪品、義母のキッチンには84万円" 第5話

私はノートを閉じることなく、子に座ったまま玄関の方を見つめた。

リビングの引き戸がき、ネクタイを緩めた夫が入ってきた。

52歳。額がし退し、腹のっ張り始めた、どこにでもいる堅物流会社の営業マン。

その顔には、昼の話の件など最初からなかったかのような、平然とした疲労のだけが張り付いていた。

「あー、今も暑かった。おい美、飯は? 喉乾いたから、とりあえずたい茶してくれよ」

夫はスーツの着を脱ぎ、ソファーの背もたれに無造作に投げ捨てた。

そして、テーブルのに並べられた数冊のノートに線を落とし、そうに眉を寄せた。

「……何だよこれ。何で昔の計簿なんか引っ張りしてんだ? 気の悪い」

私はちがらなかった。

喉の奥がカラカラに乾いていたが、声は驚くほどく、たく響いた。

「浩さん。昼の話、まだ終わってないわ」

夫は骨に舌打ちをし、腕を組んで私を見ろした。

「まだその話を引きずってんのかよ。しつこいな。母さんのところにフィルターを持ってったのがそんなに気に入らないのか? 実の親に孝して何が悪いんだよ。お、嫁の分際で俺の親を差別する気か?」

「差別なんかしてない。私が聞いてるのは、どうして私に嘘をついていたのかってことよ」

「嘘なんか吐いてねえだろ!」

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「吐いてるわよ!」

私はテーブルをのひらでく叩いた。

バチン、と乾いた破裂音がリビングに響く。

夫が瞬、気圧されたように目を見いた。結婚して、私がこんなに声を荒らげたことなど、度もなかったからだ。

「あなたはこの、毎毎『うちにはおがない』『余計なものは買うな』『老のために節約しろ』って私に言い続けてきた! 私が自分の靴買うのも、友達とお茶をむのも、病院の検査にくことすら、全部『がない』って理由で奪ってきたじゃない!」

「それとこれと何の関係があるんだよ! あっちのフィルター代は俺の遣いからしたんだよ!」

「あなたの遣い!?」

私はソファーのに放りされた夫のスーツに歩み寄った。

夫が「おい、何するんだ!」と叫んで制止しようとを伸ばしたが、私はそれを払いのけ、着の内ポケットにを突っ込んだ。

探していたのは、財布ではない。

夫がいつもレシートを溜め込んでいる、さな革の帳だった。

「やめろ、美! 勝にの持ち物を漁るな!」

夫が私の腕を掴もうとした瞬、帳の隙から、つ折りにされた青いの束がに滑り落ちた。

エアコンの微に煽られ、枚のが私の元に裏返って止まる。

私はそれを拾いげた。

印字されていたのは、スーパーの見切り品の文字でも、ガソリンスタンドの油記録でもなかった。

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枚方駅にある、宅設備メーカーのショールームのロゴ。

そして、太いゴシック体で印字された見積の控えだった。

『システムキッチン・浄器体型タッチレス栓・ハイグレード換気扇規交換事式』

『お見積もり額:万千円』

『受領済:万円(現)』

注文者の欄には、夫の乱暴な跡で、こう署名されていた。

【施主名: 浩】

【設置先所:枚方宮之阪 里ヶ丘公団宅 富美子様方】

付は、先の。

私が「千円の仕事靴を買わせてほしい」と頼み込み、夫に「危がりない」となじられて諦めた、まさにその翌週の付だった。

「……これ、何?」

私の指先が、を破きそうなほどくを握りしめた。

目のの景が、真っにスパークしていく。

「浩さん。これ……お義母さんの団のキッチン、丸ごとリフォームする契約よね?」

夫の顔から、先ほどまでの威圧なが、さあっと引いていった。

泳ぐ線が、私の元にある青いと、私の顔のを何度も往復する。

「それは……それはだな、母さんのところの流し台が壊れかけてて危険だったから……相談に乗ってただけで……」

「、万円現で払ってるじゃない」

「…………」

「どこにあるの? そんなお。うちには円の余裕もないんじゃなかったの?」

リビングの空気が、完全に凍りついた。

夫の喉仏が、ごくりときくした。

「……相談に乗ってただけだ」

夫は乾いた唇を舌先で舐め、掠れた声をした。

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