"「次男にこの家を譲ります」義母が宣言したのは私名義の家だった" 第8話
「のがないのは、どちらですか?」
私の静かな反論に、義母がぎょっとして目を瞠った。
「、無償でまわせてもらったことへの謝はどこへったのですか? 町内会費を払ったから、むしりをしたから、の産が自分のものになるのですか? 民法第百条。使用貸借における通常の必費は、借主の負担です。んでいるが環境を維持するのは、法律も当たりの義務です」
「法律、法律って……! 族のでそんなたい屁理屈をこねて!」
義母の目が血る。
論理で勝てないと悟ると、今度はの暴力を振りかざしてきた。
「いいわよ! あんたが亮介を助けないって言うなら、私もでもあそこからていかないわ! んだ既成事実があるのよ! ぬまであのに居座ってやるから! あんたが私を追いすっていうなら、警察でも裁判所でも呼びなさい! 親戚にあんたの酷さを言いふらして、横浜できていけなくしてやるから!!」
を塞ぎたくなるような罵声。
だが、そのだった。
テーブルので、私のスマートフォンがく震えた。
画面に表示されたのは、京で働く義妹――健太と亮介の妹である、からの着信だった。
スピーカーフォンにして通話を取る。
「もしもし、ちゃん?」
『あ、嫂さん? 今、実の母さん、そっちにってない!?』
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切迫したの声が、リビングに響き渡った。
義母がピクッと反応し、言葉を詰まらせる。
「ええ、今、目のにいるわよ」
『やっぱり……! 嫂さん、母さんの言うこと、文字も聞かなくていいからね!』
「! あんた、母親に向かって何てことを――」
『黙ってよ母さん!!』
義妹の鋭いが、義母の声を完全に遮断した。
『私、亮介から全部聞いたよ! 母さんが亮介にを譲るって言いした本当の理由!』
空気が、張り詰める。
「本当の理由……?」
私が尋ねると、は受話器の向こうで悔しそうに息を吐きした。
『母さん、先から亮介に迫ってたんでしょ? 「あのをおのものにしてやるから、私をぬまでそので同居させて介護しろ」って!』
息が止まりそうになった。
義母の顔から、さっと血の気が引いていく。
『亮介はが苦しいから、母さんのとあのがあれば助かるとって、最初は話を半分に聞いてたの。でもね、母さんが勝に話をめて、嫂さんのを乗っ取ろうとしてるってって、あいつパニックになってるんだよ! 母さんは自分の老の面倒を亮介に押し付けるために、嫂さんのを餌に使っただけでしょ!!』
「ち、違うわよ! 私はただ、藤澤の督を――」
『藤澤の督なんて、お父さんが事業に失敗したに全部消えたの! みっともない見栄を張るために、嫂さんの善を踏みにじるのはもうやめてよ!!』
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プツリ、と通話が切れた。
リビングに、のような静寂が落ちる。
義母は両を震わせ、唇をにしてち尽くしていた。
次男を救うための美談などではなかった。
男の夫は弟のために妻を欺き。
母親は自分の老の介護を次男に保障させるための「付」として、嫁のを利用しようとした。
全員が、自分の保と欲望のために、私のを奪いっていたのだ。
「……お義母さん」
私は静かにちがり、玄関を指差した。
「今すぐにていけとは言いません。ですが、私のを誰かに譲るという話は、この瞬を以て永久に終しました。お引き取りください」
義母は私を憎悪に満ちた目で睨みつけ、震えるでバッグを掴むと、逃げるように玄関へと向かっていった。
乱暴にドアが閉まる音が、マンションの部に虚しく響いた。
だが。
私の胸の奥にある黒い澱は、しも消えていなかった。
義母のは分かった。
亮介の追い詰められた状況も分かった。
だが、番肝なパズルのピースが、まだ嵌まっていない。
なぜ、夫の健太は、ここまで狂気じみたにたのか?
普段は事なかれ主義で、波をてることを何よりも嫌い、私の顔を伺ってばかりいた男が。
なぜ、夫婦関係の破滅を冒してまで、実印を偽装してでも担保を押し通そうとしたのか。
いくら弟がい男だとしても、異常すぎる。
リスクとリターンの計算が、まったくっていないのだ。