"「次男にこの家を譲ります」義母が宣言したのは私名義の家だった" 第3話
見かねた私が、自分が結婚に購入してに貸ししていた横浜の軒を、契約期満のタイミングで無償提供したのだ。 『美咲さん、本当にありがとう。この恩は忘れません』 々とをげて涙ぐんでいた義母の姿を、私は今でもはっきりと覚えている。
トラブルを避けるため、親戚関係とはいえ正式に《使用貸借契約》を交わした。 【所権は藤澤美咲に留保されること】 【第者への転貸、譲渡、担保設定は固く禁ずること】 【期は定めのない無償貸与とし、渡しを求めた際は誠実に協議すること】
契約には、義父も義母も、そして健太も署名捺印したはずだった。
それなのに。 義父がくなり、親族の法事をあのでうようになってから、しずつ歯が狂い始めた。 いつのにか義母のから「うちの本」「藤澤の敷」という言葉が平然とるようになり、親族たちも疑いなくその虚飾を受け入れていった。
違を覚えるたびに、私は夫に正を求めていた。 『お義母さんの言い方、親戚に誤解を与えるわ。ちゃんと私の持ち物だって説して』
その度に夫は、決まってこう言って話を濁したのだ。 『母さんも寂しいんだよ。波てるなよ』 『事実なんて俺たちが分かってりゃいいんだから、を持たせてやれよ』
を持たせる? 冗談じゃない。
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夫がそうやって「優しい息子」の顔を保ち、実の体面を守るために差ししていたのは、私の資産であり、私の尊厳だったのだ。
「私が今までしてきたのは、族としてお義母さんを尊したかったからよ」 私はシートベルトを握りしめ、夫の横顔を射抜くように見つめた。 「でも、あなたは違った。私の沈黙を利用して、私のを勝にに差しす段取りをつけていたのね」
「差しすなんて言ってないだろ!」 夫が突然、ハンドルを叩いた。 内に鈍い音が響き渡る。
「俺はただ、亮介を助けたいだけだ! 弟が困ってるんだよ! おにはの血が通ってないのか!?」
「の血?」 わず、乾いた笑いが漏れた。 「の財産を勝に贄に捧げておいて、よくそんな台が吐けたものね」
赤信号でが止まる。 夫は荒い息を吐きながら、忌々しそうに顔を背けた。 その横顔を見つめながら、私は料亭での亮介の言葉をいしていた。
『兄貴は先週、嫂さんとはもう話がついてるって言ったじゃないか』
亮介の狼狽は本物だった。 義母の「譲ります」という宣言に親族が歓声をげた瞬、亮介はぶどころか、まるで限爆弾のスイッチを押されたような顔をしていた。
あの違の正体は何だ? 夫は体、どこまで話をめている?
が自宅マンションの駐に滑り込むまで、度と言葉が交わされることはなかった。
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リビングのかりを点けると、昼の気まずい空気がそのまま気となって肌に触れた。 靴を脱ぎ散らかしてソファに倒れ込もうとする夫の背に、私は容赦なく声をかけた。
「座りなさい」
「……疲れてるんだよ。にしてくれ」
「座って。今すぐ」
私の声の徹さに気圧されたのか、夫は舌打ちをしながらダイニングチェアを引いた。 私は寝の斎へ向かい、鍵のかかるクローゼットの奥から、冊の分いクリアファイルを取りした。
ドサリ、と音をててテーブルに置く。
表には『産権利関係類・管理台帳』とテプラが貼られている。 には、に司法士から受け取った権利証、直で取得した登記事項証、そしての《使用貸借契約》の原本が、几帳面にファイリングされている。
会計事務所を経営している私にとって、契約と数字の境界線を曖昧にすることは、プロとしてのをする。 それは庭内であっても同じだ。
夫はファイルから線を逸らし、貧乏揺すりを始めた。
「言っておくけれど、あのと建物に関する権利は、百パーセント私にある」 私は登記事項証を夫のに広げた。 「甲区、所者の欄を見て。藤澤美咲。あなたの名も、お義母さんの名も、文字たりとも入っていない。登記識別報も私が管理している」
「……ってるよ、そんなこと」
「っている?」 私は夫の目を覗き込んだ。