"「次男にこの家を譲ります」義母が宣言したのは私名義の家だった" 第1話
ビールグラスがなりう乾杯の音が止んだ直、義母がすっと背筋を伸ばしてちがった。
横浜・関内にある老舗料亭の個。 義母の胃潰瘍が完治した気祝いという名目で、親族が集まった休の昼がり。
運ばれてきたばかりの造りの皿から、かすかに漂う蘇のり。 親族たちのやかな笑い声が座敷を満たしていた、その瞬だった。
「皆さん、しを傾けてくださる?」
座に座る義母、子がい唇に品な笑みを浮かべ、同を見渡した。 歳。の割に背筋は伸び、入れされた髪が料亭の接照に照らされている。
親族たちの箸が止まる。 義母は芝居がかったつきで襟元を正すと、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「私ももうを過ぎました。体がくうちに、の理をつけておこうといましてね」
親族の何かが、神妙な顔つきで頷いた。 私も元の箸を置き、お茶の湯呑みに指を添えた。 料理の配膳や親族への挨拶回りで張り詰めていた肩の力を、ようやく抜こうとしていただった。
「今、私がまわせていただいているあの戸建てのことです」
座敷の空気が、わずかに引き締まる。
「あそこはね、これからの藤澤を背負ってつ、次男の亮介に譲ろうといます」
……は?
考が、完全に止した。 喉の奥が、瞬でカラカラに渇ききっていく。
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「まあ、亮介ちゃんに!」 「あそこ、横浜でもいい所じゃないの。よかったわねえ」
親族の叔母たちが、無邪気に歓声をげた。 末席で呆然としている義弟、亮介の顔が界の端に入る。 亮介は川崎でさな自備を営んでいるが、ここ半ほど資繰りに苦しんでいると聞いていた。
義母は満そうに顎を引いた。
「亮介もを広げて頑張っているし、何よりあの子にはこれから活の基盤が必ですから。親として、できる限りの支えをしてやりたいの」
拍すら起きそうな空気が、部を包み込む。
待って。 何を言っているの、このは。
あのは、私のだ。
、夫の健太と結婚するより、私が個で事務所をちげた期に、独代の貯と自己資で買い取った私名義の軒。 に義父がくなり、賃貸の更ができずに困り果てていた義母を見かねて、「賃はいりませんから、落ち着くまで使ってください」と無償で鍵を渡した所にすぎない。
藤澤の持ち物などでは、最初からミリたりともない。
「あの、お義母さん」
私がをきかけた、その刹だった。
「母さん」
私のすぐ隣から、くい声が響いた。 夫の健太だった。
ちがった夫の横顔は、引きつるように張っている。 親族たちの線が斉に夫へと集まった。
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男として、母親の暴を正してくれるのだと、私は瞬だけ息を呑んだ。
だが、夫のから零れ落ちた言葉は、私の鼓膜を容赦なく切り裂いた。
「もう隠さなくていい。……俺が、母さんに頼んだんだ」
座敷が、静まり返った。 襖の向こうから聞こえる庭のししおどしの音だけが、やけにきく響く。
臓が、鐘を打つ。 胸の奥を、氷の刃でく抉られたような悪寒がった。
……俺が頼んだ? いま、このは何と言った?
「健太……?」
掠れた声で夫を見げた。 だが、夫は度も私と目をわせようとしない。 を、座敷の奥に座る親族たちだけを睨みつけるように見据えている。
義母がすかさず、加勢するようにを乗りしてきた。
「そうなのよ。健太も男として、ずっと弟のことを配していたの。亮介のは今が正だし、美咲さんだって今は別のマンションにんでいて、あのを使っているわけじゃないでしょう?」
「母さんの言う通りだ」
夫が言葉をねる。 その声は、自分自に言い聞かせているかのように震えていた。
「美咲。俺たちは族だろ。困っている族をにして、見殺しになんてできないはずだ」
族。 見殺し。
計算され尽くした言葉の罠が、私の周りに音をてて張り巡らされていくのが分かった。 親族の線が、刃物のように私に向けられている。
『なんて優しい男だろう』 『それに比べて、あの嫁はどう答えるのか』
言えるわけがない。 こので「あのは私の婚資産で、義母に譲渡する権利などない」