"「お母さんのところに行きたい」9年後に届いた娘の声" 第10話
いきなりの言いがかりだった。 謝罪の言もなく、事態の責任をすべてに押し付けようとする、昔と寸分違わぬ態度。
『誠のやつをで抱き込んだのか? あいつが急に昔の録音なんか持ちしてきやがって……。 おが今更しゃしゃりてきて、俺と結の関係をめちゃくちゃにして、何が楽しいんだ。 俺がどんないであいつを育ててきたか、何もらないくせに!』
受話器を握るの関節がくなる。 りで体が震えた。 けれど、叫びしたいを、私は徹に押し殺した。
「結を唆したのは、私じゃない」
静かに、言言を区切るように言った。
「あなたがついた嘘が、かけて結を追い詰めたのよ。 を奪って、録音を隠して、着信拒否にして……あの子が母親に捨てられたとい込むように仕向けたのは、あなた自でしょう」
『俺は結を守りたかったんだ!』
修司が受話器の向こうで鳴った。 その声に、かつての恐怖は湧いてこなかった。ただ、れだった。
『おみたいな、パート暮らしでいつ潰れるかも分からない女に、結を預けられるわけがないだろう! 母親に未練を残してグラグラ揺れるくらいなら、母親なんて最初からいなかったとわせた方が、あの子のためになるとったんだ! 俺のどこが違ってる! 俺は父親としての責任を果たしただけだ!』
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「責任?」
私のから、たい笑いが漏れた。
「自分の寂しさを埋めるために、子供の目を塞ぎ、を塞ぐことが、あなたの言う責任なの? 結はね、歳の誕に、で部に鍵をかけて話を待っていたのよ。 母親からの言を待って、泣いていたの。 あなたが奪ったのは、私のだけじゃない。結が母親を求める権利を、あなたが奪ったのよ」
話の向こうの呼吸が、乱れた。
『……今更、そんな昔の話を蒸し返して何になるんだ』
修司の声から、威勢が消え失せていた。 ただの、追い詰められたの怯えが滲みている。
『過は変えられないだろうが。 今更俺を責めたって、失われたは戻ってこないんだよ! おがやってることは、ただの自己満だ!』
「そうね」
私はく息を吸い込み、受話器に向かってはっきりと告げた。
「過は変えられない。 でもね、修司さん。 これからも同じ嘘を信じてきる必は、どこにもないでしょう」
沈黙が落ちた。
「結はもう歳よ。誰の所物でもない。 あなたが決める権利も、私が指図する権利もない。 あの子は自分の志で、あなたかられることを選んだの。 ……これ以、結のを縛らないで」
それだけを言い残し、私は通話を切った。 そして、その番号を着信拒否に設定した。
、調で震えながら判を押したあの惨めな私は、もうどこにもいなかった。
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それから、。 結からの連絡は途絶えた。
朝に起き、から仕入れた野菜を切り、唐揚げを揚げ、昼の混雑を乗り切る。 常は何も変わらずに流れていく。
けれど、スマートフォンの画面を見る回数は、らかに増えていた。 メッセージは来ない。 スタンプつ届かない。
が、夜の帳とともに胸の隙に忍び込んでくる。
父親と決定な決裂を迎えた結は、今、埼玉のアパートで何をっているのだろうか。 母親である私のすら、荷にじて、またを閉ざしてしまったのではないか。 あのの空は、そう簡単に埋まるはずがないのだ。
『今夜の夕飯は何にしたの?』 そう送りたい衝を、毎晩、必に抑え込んだ。 過保護なで縛り付けようとすれば、私はあの男と同じ穴の狢になってしまう。
信じて、待つしかなかった。 歳ののとして、あの子が答えをすのを。
曜の夜、付が変わる直だった。 枕元に置いたスマートフォンが、微かに震えた。
恐る恐る画面をく。 結からのいメッセージだった。
『今週の曜、おにってもいい?』
喉の奥から、い塊が込みげてきた。 何度も画面を指でなぞりながら、私は震える指で返信を打った。
『もちろん。何でも待ってるよ』
曜の午。 昼のピークを過ぎ、仕込みのの静けさが内に戻った頃だった。
カランコロン、と入のドアベルが鳴った。