"「お母さんのところに行きたい」9年後に届いた娘の声" 第8話
どちらかが悪かったのではない。 の醜い執着と嘘のに挟まれ、私たちはあまりにも器用で、あまりにも傷つくことを恐れすぎていた。
結はテーブルに突っ伏し、声を殺して泣きじゃくった。 歳のスーツを着たの女性が、まるで歳のあの置きりにされた女のように、肩を激しく揺らして泣いていた。
私はを伸ばした。 触れていいのか分からなかった。 の空が、私の指先を躊躇わせた。
だが、気づいたには、結のえ切った、震えるを包み込んでいた。
「ごめんね、結」
涙で界がぐちゃぐちゃになりながら、私は何度も繰り返した。
「信じてあげられなくて、ごめんね。 の喧嘩に巻き込んで、あんなに寂しいいをさせて……本当に、ごめんね」
結は私のを、振り払わなかった。 それどころか、細い指先で、壊れそうなものを掴むように、私のを力いっぱいに握り返してきた。
温かかった。 、ずっとのでしか触れることのできなかった、私の娘の体温だった。
どれくらいのが流れただろうか。
結はナプキンで丁寧に涙を拭い、めきったブレンドコーヒーをんだ。 その顔には、先ほどまでの刺々しい警戒は消えていた。 けれど、すべてが解決したわけではない。 失われたは、涙を流したからといって元通りに埋まるものではなかった。
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結は、テーブルのに置かれた帳とを、おしそうに見つめたあと、ゆっくりと顔をげた。
その瞳の奥に、かつてないほど鋭いが宿っていた。
「……お母さん」
「うん」
「お父さんは、私のためだって言ってた。 お母さんに会わせないのも、を隠したのも、全部、私が揺して受験に失敗しないため、傷つかないためだって……ずっとそう言い訳してきた」
結の声から、震えが消えていた。 それは、傷ついた子供の声ではなく、自分のでつのとしての、静かな決の声だった。
「でも、それは嘘。 お父さんは、私のためじゃなくて、自分が私に捨てられるのが怖かっただけ。 私のを、自分の寂しさを埋めるための具にしてただけだわ」
結はコートをに取り、ゆっくりとちがった。 バッグにのコピーをしまい、私をまっすぐに見つめた。
「、埼玉の実にく」
臓がねた。
「結、修司さんに会うの?」
「うん。逃げさせない」
結は迷いのない調で言った。
「どうして私のを奪ったのか。 どうして、私の選ぶ権利を奪ったのか。 お父さんのから、直接全部、吐きさせる」
痛々しいほどの決が、その横顔に刻まれていた。
「……でくの? ついてこうか」
私の言葉に、結は静かに首を振った。
「ううん。これは、私が終わらせなきゃいけないことだから。
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、お父さんの顔を窺って、言いなりになってきてきた私自に、決着をつける」
結は伝票をに取ろうとしたが、私がそれを制して伝票を引いた。 結はしだけ困ったように眉をげたあと、「ごちそうさまです」とさくをげた。
階段をがる直、結がを止め、振り返った。
「お母さん」
「なぁに」
「……また、連絡してもいい?」
喉の奥がくなった。 私は精杯の笑顔を作って、力く頷いた。
「当たりじゃない。いつでも、待ってる」
結はさく頷き、の喫茶からへと駆けがっていった。
残された席で、私はえ切った茶のカップを見つめていた。 元に残された古い帳には、分の痛みが刻まれている。
、結は父親と対峙する。 守られ、そして奪われ続けたあので、あの子は過を清算するために戦おうとしている。
私はスマートフォンを握りしめ、来るはずのない嵐の気配に、ただ祈るようにをくしていた。
翌の曜、板のの厨にちながらも、私の識はずっと埼玉に向かっていた。
根の皮を剥く包丁の元が、何度も狂いそうになる。 ステンレスの調理台に置いたスマートフォンが界に入るたび、胸の奥がぎゅっと縮みがった。
画面は、暗いままだった。
結は本当に、父親の待つへ向かったのだろうか。
あの男と向きい、分の嘘を暴くことが、歳のあの子にとってどれほどの恐怖か。