"姉の身代わりで謝罪したら「最初からあなたをご指名です」" 第20話
そして、にしたブリーフケースから、品な掛けが巻かれたさな桐箱を取りし、駄箱のに静かに置いた。
「こちらは曇野の酒です。ご挨拶代わりに」
「これはこれは、ご丁寧に……」 父が卑屈な笑みを浮かべてを伸ばす。
その空気を切り裂くように、松本さんの声が段くなった。
「川様。仲の吉田様を通じて伺いました。ご親戚の方々から、私どものや私との結婚に関して、すでに過分なお祝いのお話が回っていると」
父のが、空でピタリと止まった。 母の引きつった笑顔が、サーッと凍りついていく。
「それは……その、うちの内が気がくてですね……」 父がや汗を拭いながら言い訳を探す。
「誤解を招くような事態になっているのでしたら、私の言葉がりなかったと反省しております」
松本さんは、線を逸らさずに両親をまっすぐに見据えた。
「はっきりと申しげます。私と奈緒さんは、先週ようやく初めてお会いしたばかりです。現はお互いの柄や価値観を、歩ずつっていく段階に過ぎません。婚約も、結納も、具体な結婚の期についても、何つ決まっておりません」
「え……」 母の喉から、掠れた声が漏れた。
「ましてや、ご実へのおの面や、お姉様の活のご支援などといったお話は、筋違いもだしいとじます。
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私どもは方のさなを営むであり、そのようなお約束ができるにもございません」
理然とした、氷のようにたく、逃げのない正論。 な罵倒よりも、その静かな言葉の方が、何倍もく両親の卑しさを抉り取っていた。
母の顔から、完全に表が抜け落ちた。
「そ、そんな……だって吉田専務の奥様は、松本さんが奈緒を気に入ってくださったと……」
「奈緒さんのことは、から尊敬しております」
松本さんは、私の目をまっすぐに見つめた。 その瞳には、嘘も諂いも、これっぽっちも混ざっていなかった。
「真面目で、自分の仕事に誇りを持ち、者の痛みに寄り添うことのできる、かけがえのない方だとっております。だからこそ」
松本さんは、再び両親に向き直った。
「奈緒さんをの独したとして尊いたします。彼女がどこにみ、どうきるかは、彼女自が決めることです。ご族であっても、彼女の尊厳を奪い、都のいい労働力として縛り付ける権利はありません」
玄関の空気が、完全に止まっていた。
父はを半きにしたまま固まり、母は屈辱と恐怖で肩を刻みに震わせている。 、このので絶対な権力者として君臨してきた両親が、ので、これほど無残にさくなった姿を、私は初めて見た。
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私は、息を吸い込んだ。 たい朝の空気が、肺の隅々まで満ちていく。
の震えは、いつのにか止まっていた。
私は駄箱のに、先ほどのリビングから持ってきた真鍮の鍵を、静かに置いた。 カチャリ、とい属音が、静寂に落ちる。
「お父さん、お母さん」
私の声は、震えていなかった。
「鍵、ここに置いていくね」
母がビクッと肩をねさせ、幽霊でも見るような目で私を見た。
「奈緒……あんた……」
「今まで、育ててくれてありがとう。をてから毎入れてきた活費と、用品の買いしと、毎の事で、私がこのに返すものは全部終わったとってる」
「な、何言ってんのよ! 族でしょうが! あんた、親を捨てる気!?」 母が最の力を振り絞るように叫んだ。
けれど、その声はもう、私の胸をかすりもしなかった。
「捨てるんじゃないよ。これからは、自分たちで暮らしてって言ってるの。曜のプラスチックゴミの分別も、お父さんの胃カメラの予約も、お姉ちゃんのブラウスのアイロンがけも、全部、自分たちでやって」
「奈緒ッ!」
「便になるとう。でも、それが普通なんだよ」
私は元に置いていたボストンバッグを持ちげた。 に入っているのは、数着の着替えと、祖母の古い芸ノートだけ。 具も、も、残りの荷物も、今の午、単引越しのトラックがアパートに届けてくれるはずになっている。
奥の廊から、音が聞こえた。 物音に気づいて起きてきた姉の綾が、パジャマ姿のまま呆然とち尽くしていた。