"姉の身代わりで謝罪したら「最初からあなたをご指名です」" 第18話
胸がいっぱいです。お祖母様が、私たちのの名をそんなにき留めてくださっていたなんて……。奈緒さん、このノートは、私たちの原点です。見せてくださって、本当にありがとうございます』
画面越しの彼の言葉に、震えていた指先がすっと落ち着きを取り戻していく。
『松本さん』 私は文字を打ち込んだ。 『私、決めました。いうちに、実をて暮らしを始めます』
しのがあって、返信が来た。
『そうですか。……ご自のおに従って、決めたことですね』
『はい。誰のためでもなく、私が私としてきるために、自分のでちます』
『応援しています。物件探しや、い荷物の運びしなど、私にできることがあれば何でも言ってください。曇野から軽トラックで駆けつけますから』
クスッと笑いがこぼれた。 軽トラックで駆けつける、という言葉が、いかにも彼らしくて温かかった。
『ありがとうございます。でも、まずは自分の力でやってみます。契約が済んだら、番に松本さんにご報告しますね』
『楽しみに待っています。どうかご無理をなさらず、今夜は温かくしてお休みください』
画面を伏せ、私はく息を吸い込んだ。 迷いは、もう微もなかった。
翌週の曜。 会社の昼休みに、私は川越駅にあるさな産仲介の舗にび込んだ。
以から目をつけていた、駅から徒歩分のワンルームマンション。
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築、当たりはあまり良くないけれど、オートロックがついていて、何より会社から自転で通える距にある。
「内見はされますか?」と尋ねる産の担当者に、私は首を横に振った。 「図面とお写真で分です。今すぐ契約の続きをめてください。今週末には入居したいんです」
担当者はし驚いていたが、私の真剣な表を見て、すぐに類を用してくれた。 契約、賃、災保険料、仲介数料。 提示された万円の初期費用を、私は持参した自分の名義の通帳から、そので迷わず全額振り込んだ。
母に内緒で、夜勤のデータ入力のアルバイトをしてしずつ貯めてきた百万円。 私の血と汗と、耐え忍んできたの結晶。 その通帳の残が減ることに、何の痛みもなかった。 これは、私が私の自由を買い戻すための、最も尊い対価だった。
曜の夕方、会社帰りに産に寄り、層な印鑑が押された分い封筒を受け取った。
『賃貸借契約』
表に印字されたその文字に指を触れた瞬、喉の奥がツンとした。 私の名で、私の責任で借りた、私だけの。
そして、曜の朝。
いつも通り、朝半にリビングにりると、母が朝の目玉焼きを焼き、父がテレビのニュースを見ていた。 姉の綾は、まだ起きてきていない。
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「奈緒、今の夕飯はすき焼きにするから、いいお肉買ってきなさいよ。松本さんに送るお礼の果物の配も、あんたの料からしておいてね」
母がフライパンを揺らしながら、当たりのように言った。
私は何も答えず、仕事用のトートバッグから、つのものを取りした。
つは、実の玄関の鍵。 真鍮の鍵の表面は、使われて角が丸くなっていた。
そしてもうつは、あの青いクリアファイルに挟まれた『賃貸借契約』の控えだった。
ツカツカとダイニングテーブルに歩み寄り、父の広げている聞のに、それらを静かに置いた。
カチャリ、と鍵が乾いた属音をてた。
父が怪訝そうに眉をひそめ、聞から目をげた。 母もを止め、フライ返しを持ったまま振り返る。
「……何よ、それ」 母が審そうに目を細めた。
「鍵を返すよ」 私の声は、自分でも驚くほどく、静かだった。
「の朝、このをて引っ越します。川越駅のくにアパートを借りました。これが、その契約です」
が止まった。
換気扇の回る音だけが、気に響く。 母の顔から、スウッと血の気が引いていくのが分かった。 父は鏡を指で押しげ、テーブルのの類を凝したまま固まっている。
「……は?」 母のから、抜けな声が漏れた。
「あんた……何言ってんの? 引っ越し? アパート? 誰の許取ってそんな勝なことしてんのよ!」
母が叫びながら詰め寄ってきた。