"姉の身代わりで謝罪したら「最初からあなたをご指名です」" 第2話
「おそらく、奈緒さんは私のことなんて覚えていないといます。でも……私はずっと、あなたのことを覚えていたんですよ」
の夜、実のリビングは号とため息で満ちていた。
「曇野ぉ? 冗談じゃないわよ。誰がそんな奥に嫁ぐっていうの」
ダイニングテーブルの端に、化粧品メーカーの課代理を務める姉・綾が、届いたばかりの釣を投げ捨てた。 サロンでえたばかりの艶やかなネイルが、蛍灯のでたくる。
「京でキャリア積んでる私が、なんで方の零細ジャムなんかに嫁がなきゃいけないわけ? デパートもない、夜遅くまでいてるレストランもないようなド田舎で、果物の皮でも剥いてろってこと?」
「でもね綾、相のお父様は、お父さんの会社代の元専務の縁なのよ! 今さら断ったら、お父さんの顔が丸つぶれじゃないの!」
母の久美子が甲い声でヒステリックに叫ぶ。 父の隆夫はといえば、リビングのソファで分い聞を広げ、線を隠すようにしてさくため息をつくだけだった。父は昔から、庭内のいざこざが起きるといつもこうして気配を消す。
私は台所にち、夕の鍋やフライパンをたいで洗っていた。 使い込まれて油の染み付いた換気扇が、くい音をてて回っている。
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「奈緒、ちょっとこっちに来なさい!」
母の鋭い声に、私はゴム袋をしてリビングへと向かった。 荒れのひどい指先が、洗剤のせいで赤く引きつっている。
「あんた、は曜で仕事休みでしょう」 「……うん。休みだけど」 「じゃあ、あんたが代わりに川越の駅までってきなさい」
母は当然のように言い放った。
「へ……? 代わりにって……」 「綾がかないって言ってるんだから、誰かが先方に顔をして謝らなきゃいけないでしょうが。ぶらでくわけにいかないから、菓子折り代はあんたの財布からしておきなさいよ。どうせ実にタダでんでるんだから、それくらい当然でしょ」
タダでんでいる、という言葉が胸にく突き刺さる。 私は毎、きちんと万円の活費を母の座に振り込んでいる。 それどころか、々の材の買いしやトイレットペーパーなどの消耗品の補充、週末の呂掃除やゴミしのほとんどを、私が引き受けていた。
歳。 元の印刷会社で、営業事務として働いている。 取りは万ちょっと。決して贅沢はできないけれど、暮らしができないほどの額ではない。
現に、私のスマートフォンのブラウザには、本川越駅から徒歩分、築・ワンルームのアパートの募集ページがブックマークされていた。
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敷・礼、当面の具の購入費。 それらをまかなうための貯用座には、母に内緒でしずつ貯めてきた百万円が入っている。
『今こそは、このをよう』
そう決するたびに、母から「最血圧がくて事が辛い」「綾がきなプロジェクトで忙しいから、あんたが事を作ってあげて」と泣きつかれ、そのたびに私は引っ越しを先送りにしてきた。
「あんたは気が利くし、をげるくらい得でしょう。相の男には適当に言っておきなさい。『姉は急なをして倒れました』って。田舎の男なんだから、それくらい言っておけば納得するわよ」
姉の綾は、鏡で髪をえながらで笑った。
「ごめんね奈緒〜。助かるわ。あんたって本当、こういう雑用だけは向いてるよね」
謝のかけらもない、見したような響き。 昔からそうだった。 学の成績が良く、社交で華やかな姉は「自の娘」。 おとなしくて領が悪く、休に古本や芸を巡るのが好きな私は「都のいい同居」。
姉の着古したが私の部に回され、姉の嫌が悪い夜は私が母の愚痴のゴミ箱になった。
「奈緒」 聞のから、父がぼそりと呟いた。 「の体面のためだ。おがちょっとをげてくれば、丸く収まるんだからな」
助け舟をしてくれるはずもない父の、責任逃れの言葉。
私は唇をく噛みしめ、爪がのひらにい込むのをじながら、たださく頷いた。 「……わかった。ってくる」
ここで反論すれば、母のヒステリーは何も続く。