"姉の身代わりで謝罪したら「最初からあなたをご指名です」" 第1話
「姉じゃなくて、本当に申し訳ありません」
私は席に着くよりもく、膝のに置いた提げ袋を握りしめ、々とをげた。
川越駅の、静かな喫茶の奥まった席。 の効きすぎた内に、私の震えた声だけが自然に響いた。
持参したのは、母から「とにかくこれを持っていって平謝りしてきなさい」と押しつけられた、元の百貨で買った羊羹の箱だ。 包装の角が、私の汗ばんだ指先でさく潰れている。
どんな罵声を浴びせられるだろうか。 あるいは、たい目で睨みつけられ、舌打ちを残してそのまま席をたれるだろうか。
相は野県曇野から、わざわざ特急と幹線を乗り継いで埼玉まで来てくれたのだ。 それなのに、目のに現れたのは写真の美女ではなく、くたびれた用カーディガンを着たな妹。
胃の奥が雑巾のように絞られる。 喉が張りついて、うまく息が吸えない。
私は目をぎゅっと閉じたまま、からってくるはずのりの声をじっと待った。
けれど。
聞こえてきたのは、擦れの静かな音と、陶器のカップがソーサーに触れるかすかな音だけだった。
「……あの、をげてください」
く、けれど拍子抜けするほど穏やかな声だった。
恐る恐る顔をげると、テーブルの向こう側に座る男性――松本悠真さんが、困ったように眉をげて私を見ていた。
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代の終わり特の落ち着きと、しに焼けた肌。 仕ての良いネイビーのサマーセーターを着ているが、ブランド物で着飾ったような嫌さはまったくない。 むしろ、爪の先まできちんと切り揃えられた指先や、伏せられたいまつげに、どこか職のような実直さが滲みていた。
「あの……本当に、なんとお詫びを申しげたらいいか……」 「お姉様が、急に来られなくなったんですか?」 「はい……京の仕事で急なトラブルがあったと、母からは聞いておりまして……でも、本当は……」
嘘をつき通すことなんて、最初からできなかった。 私には、姉のように領よく取り繕う器用さなんてない。
「本当は、姉がどうしても気がまないと……今朝になって断ったんです。方への嫁入りなんて考えられない、と。母は仲さんの顔を潰すわけにはいかないからと、私に……代わりにってをげてこいと、そう言われて参りました」
恥ずかしさで、目のがチカチカした。 歳にもなって、親の言いなりになって代わりの謝罪に来ている自分。 惨めで、けなくて、消えてしまいたかった。
「おりはごもっともです。今のお茶代はもちろん私が支払いますし、野からの往復の交通費も、領収をいただければ私のほうですべてお支払いしますので……どうか……」
でまくしたてる私を、松本さんは静かに見つめていた。
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るでもなく、呆れるでもなく。 ただ、探るように、慈しむように、私の顔をじっと見つめている。
その沈黙に耐えかねて、私は再び俯こうとした。
その、松本さんがふっと元を緩めた。
「川奈緒さん、ですよね」
名を呼ばれ、私の臓がさくねた。
「……え? あ、はい。妹の、奈緒です。姉の綾ではなくて……」 「っていますよ」
松本さんは、テーブルのに置かれたアイスティーのグラスに指を添えながら、何でもないことのように言った。
「最初から、あなたにお会いしたかったんです」
……は?
言葉のが、すぐには脳に届かなかった。
私ののは真っになり、いたが塞がらなくなった。
最初から、私に? どういうこと? 母は違いなく言っていたはずだ。「相は女の綾さんを気に入って見いを申し込んできたのよ」と。
混乱して固まる私を見て、松本さんはしだけ悪戯っぽく目を細めた。
「驚かせてしまってすみません。でも、本当なんです。私がお見いをお願いしたのは、お姉様ではなく、奈緒さんでした」 「で、でも……母は……」 「おそらく、ご実の方で何かき違いがあったんでしょうね」
松本さんはそう言って、胸ポケットからスマートフォンを取りした。
「奈緒さん。今から……野の町でかれた、初のクラフトを覚えていますか?」
クラフト。
その単語を聞いた瞬、私の記憶の奥底で、埃をかぶっていたさな引きしが音をてていた。