"四十八歳、二十五年の家事を「無職」と呼ぶ夫へ" 第9話
続いて、私は事務所へと向かった。
受付番号を引いて待つこと分。 ブースに案内され、担当の女性職員に戸籍謄本と帳を提示して、「分割のための報提供請求」をいたい旨を伝えた。
「婚のご請求ですね。相方のご同はで、ご本様からの請求のみでお続き能です」
職員の械で淡々とした説が、かえってかった。 夫にられることなく、公な調査がむ。
「結果が記載された『分割のための報通』は、通常、週からヶほどでご自宅へ郵送されます。世帯主様宛ではなく、請求者ご本様宛の親展で届きますのでごください」
「……ありがとうございます」
事務所をたとき、計の針は午を回っていた。 のたいが、コートの裾を揺らす。
バッグのには、法務局で取得したばかりの登記事項証。 そして、分割の続きの控え。
形のない「主婦の犠牲」が、しずつ、法律の言葉と制度の枠組みへと変換されていく。 夫が「俺のだ」「俺のだ」と叫び続けてきた台は、決して彼ひとりの力で成りっていたわけではない。 その現実を突きつけるための弾丸が、私の元に着実に揃い始めていた。
だが、現実はそう甘くはなかった。
恵理のアドバイスを受け、私は毎晩、娘の奈美から譲り受けた古いノートパソコンに向きった。
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画面の青いを浴びながら、無料のタイピング練習ソフトを叩き、YouTubeでExcelの関数解説画を繰り返し再する。
公民館の仕事が終わった午、ハローワークの端末で求を検索し、履歴と職務経歴を何通も印刷した。
『川子 歳』
その文字列が並ぶ履歴を、つの封筒に入れて投函した。 元の調剤薬局の受付事務。 私の購買・図事務。 隣の物流センターの般事務。
どれも正社員、あるいは正社員登用ありの契約社員の求だった。
けれど、週もしないうちに、私のスマートフォンには酷な通が相次いだ。
『慎に選考をねました結果、誠に残ながら、今回はご希望に添えない結果となりました……』
お祈りメールと呼ばれる、定型文の拒絶。 通、また通。 投函した社すべてから、面接にすらめないまま、類選考での落選を告げられた。
画面を見つめる指先が、たく凍りつく。
理由などかれていない。 けれど、から無言のメッセージが痛いほど伝わってきた。
——歳。以のブランク。正社員歴なし。 企業が喉からがるほど求めているのは、もっと若く、残業を厭わず、最のITツールを呼吸するように使いこなす材だ。
「……遅すぎたのかな」
誰もいない昼がりのリビングで、独り言がこぼれた。 胸の奥を、鉛のような無力が押し潰していく。
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夫のあの笑が、の奥で蘇る。 『おはもう歳なんだよ。社会経験なんて以に途切れてる、ただのパート主婦だ』
あのの言った通りだったのだろうか。 私はただ、の程らずなを見て、自分を買い被っていただけなのだろうか。
流し台には、夫が朝んだきり放置していった、黒ずんだコーヒーカップが転がっていた。 洗ってやる義理はない。 そういながらも、散らかった空にいるだけで、自分の輪郭まで擦り減っていくような錯覚に囚われる。
そのだった。
カチャリ、と玄関のドアノブが回る音がした。
「ただいまー……って、うわ、寒っ。なんでついてないの?」
きなスポーツバッグを肩に担いだ青が、ズカズカとリビングに入ってきた。 スウェット姿に、ボサボサの髪。
男の、亮だった。
「亮……? どうしたの、急に。連絡もなしに」
驚いてちがると、亮はリビングのソファーにドサリとバッグを放りし、そのままの字に倒れ込んだ。
「講義が休講になったから、週末だし帰ってきた。飯なんかある? 腹減ったんだけど。あと、これ洗濯しといて」
元に放り投げられたのは、暮らしの寮で溜め込んだとわれる、週分の杯になった洗濯ネットだった。
かつての私なら、反射に「おかえり、何か作るわね」と台所にち、洗濯を回していただろう。
けれど、私の体はかなかった。