"台所の生贄、義母の黒革手帳" 第7話
文恵は唇を噛み締め、線を畳に落としたまま答えない。
「そしてね、達也さん」 私は美穂へと線を向けた。美穂は居悪そうにビールグラスをいじり、私と目をわせようとしない。 「美穂さん。あなた、昨のにこの実のと建物、すべて贈与で譲り受けていますよね?」
「……はぁ? 何よそれ。誰が言ったのよ」 美穂はわざとらしくで笑おうとしたが、その声は微かに震えていた。 「登記簿謄本を見ました。法務局の公印が押された本物です。資産価値にして千万円いこの産を、男である達也さんには言の相談もなく、あなたが単独で相続した。違いますか、お義父さん?」
修造がドン、と拳で座卓を叩いた。 座卓のの鉢がカタカタと音をててねた。 「嫁の分際で、このの財産の話にを挟むな! 誰に何を継がせようが、儂の勝だ! 美穂はずっと儂らのくにいて、顔を見せてくれた。達也は京にてって、たまにしか帰ってこん! 当然の報いだ!」
「なるほど、お義父さんの理屈はよくわかりました」 私は歩も退かなかった。 、この理尽な声に縮こまり、ただ「申し訳ありません」と繰り返してきた私では、もうなかった。
「くにいて顔を見せてくれる美穂さんには、千万円の資産を譲る。それは結構です。ご族ので話しって決めたことなら、の私にはをす権利はありません。
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……ですが、それならなぜ、お義母さんの介護費用と老ホームの額費用を、達也さんの料からさせようとしているのですか?」
「なっ……!」 修造の喉が詰まった。
「流し台のに、見積と緒にありましたよ。『は実のを担保にする件、と相談済み。残債は達也の与から々補填のこと』と、お義父さんの字でかれたメモが。でも、は美穂さんのものになっていたから担保に入れられない。だから美穂さんは『はもらったけど、介護は男の嫁の仕事でしょ』と逃げた。そうですね、美穂さん?」
美穂の顔が、りと羞恥で真っ赤に染まった。 「な、何よ! 娘の私が親の面倒を見る義務なんてないでしょ! 昔から介護は嫁がやるものって決まってるじゃない! 私には私の庭があるのよ!」
「ええ、あなたにはあなたの庭がありますね。そして私にも、私の仕事と、私のがあります」 私の声は、氷のようにたかった。
「お義母さんは、その美穂さんに介護を拒否され、修造さんにも見放され、逃げを失った。だから、私をこのに縛り付けようとしたのよ。『来なくていい』と親切ごかしに言って罠にかけ、来なかったことを理由に親戚で責めてて孤させ、会社を辞めさせて、こので、無の介護として仕えさせるために!」
「違う……! 違うわよ、紗都子さん!」
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文恵が取り乱したように叫んだ。涙がその皺だらけの頬を伝っていた。 「私は……私はただ、あなたが羨ましかったのよ!」
の空気が、凍りついた。 文恵は畳を掻きむしるようにして、慟哭の声をげた。
「私はね、でこのに嫁いできてから、度だって自分ので旅にったことも、仕事をしたこともなかった! 修造さんの母親に毎毎鳴られ、盆も正も台所で泣きながら皿を洗って……! 修造さんはお茶つ自分で淹れたこともない! 私のが痛くても、『飯はどうした』と鳴るだけ! 美穂は財産だけ奪って逃げていく! 誰も私を助けてくれない! それなのに……それなのにあなたは何よ!」
文恵の濁った瞳が、私を射抜いた。 そこにあったのは、純粋で、底れない、同性への嫉妬だった。
「京で学をて、派な会社で働いて、転職して自分のキャリアを築いて……達也に事にされて、自由にきて! どうして私だけが、この暗い台所でを終えなきゃいけないの!? あなたも同じ目に遭えばいいのよ! このの嫁になったんだから、私と同じようにをすすって、私のを洗いなさいよ! そうじゃなきゃ……私のは何だったのよ!!」
吐きされた怨嗟の声が、部の隅々にまで反響した。 それは、父制という名の檻ので、涯をかけてを殺され、怪獣へと成り果ててしまったのれな女の、魂の絶叫だった。