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"台所の生贄、義母の黒革手帳" 第6話

「おい、紗都子! そうめんまだ茹でがらないのかよ!」

突然、襖が乱暴にけ放たれ、達也が顔を覗かせた。 そのには空になったビール缶が握られ、顔は赤く気している。

「みんな腹減らして待ってるんだよ。お、さっきから何ノロノロやってんだ? 皿洗いも終わってないじゃないか」 達也は流し台に積みがったままの器を見て、あからさまに舌打ちをした。 「ったく、際が悪いな。母さんなら今頃もう全部片付けて、そうめんも氷でやしてしてるぞ。やっぱり、母さんの爪の垢でも煎じてんだ方がいいんじゃないのか?」

私は、ゆっくりと振り返った。 そのには、まだ黒革のノートが握られていた。

「達也さん」 「あ? 何だよ。文句言うにをかせよ」 「あなた、このが誰のものかってる?」

私の声は、自分でも驚くほど静かで、平坦だった。 達也は眉をひそめ、怪訝そうに私を睨みつけた。 「は? 何言ってんだよ。親父のものに決まってんだろ。で、いずれ男の俺が――」 「美穂さんの名義よ」 「……は?」 「のに、お義父さんから美穂さんに、このも建物も全部贈与されてるの。登記簿謄本、そこの流し台のにあったわよ」

達也の顔から、瞬で酔いが引いた。 「な……何言ってんだよ、そんなわけ……」 「嘘だとうなら、居にって美穂さんとお義父さんに聞いてみたら? ついでに、お義母さんの老ホームの見積も見てみる? 千百万、々万。

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は実のを担保にするはずだったのに、美穂さんの名義になっちゃったから、残りは全部、男であるあなたの料から補填しろってお義父さんのメモがついてるわ」

「な……な、なんだよそれ! 聞いてないぞ、そんなの!」 達也の声が擦り、居の方へと響いた。

襖の向こうが、ピタリと静まり返った。 テレビの野球の歓声だけが、虚しくに響いている。

「おい、達也、何を騒いでるんだ」 義父の修造の、嫌そうない声が響いた。 「修造さん、ちょっと待ちなさいよ」 文恵の、慌てふためいた声が続く。

私はに持っていた黒革のノートを抱え、濡れたエプロンをした。 そして、度たりとも自分ので踏み込むことが許されなかった、あのるいの敷居を、躊躇うことなく跨いだ。

座卓を囲んでいたの線が、斉に私に突き刺さる。 修造は胡をかいたまま眉根を寄せ、美穂は箸を止めてそうに私を見げ、文恵は私のにある黒革のノートを見るなり、顔面を蒼にして元を押さえた。

「紗都子さん……あ、あなた、そのノート、どこから……!」 文恵の甲い震え声が、静まり返ったに波紋を広げた。

「お義母さん、これ、台所のスチールラックの洗剤の横に置いてありましたよ」 私は努めて穏やかに、しかし全員に聞こえる凛とした声で言った。

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「とても興いことがたくさんいてありました。から、私をどうやって精神に追い詰め、このの底辺に位置づけ、逆らえないように調教するか……その綿密な計画の数々が」

「な、何を言ってるのよ、このは! 修造さん、達也、この、の記を勝に盗み見て……!」 文恵がちがろうとしたが、膝に激痛がったのか、「ああっ」とい鳴をげて座布団のに崩れ落ちた。

「おい、紗都子! お、母さんに何てこと言うんだ!」 達也が私の肩を掴もうと詰め寄ってきた。 「母さんは病気なんだぞ! 朝から無理して台所にって、おのせいで腰を痛めてるんだぞ! それを労りもしないで、昔の記をほじくり返して責めてるなんて、のやることかよ!」

私は達也の目を、真っ直ぐに見据えた。 その瞳の奥にある、卑な保、母親への盲従、そして現実から目を背けようとするさを、徹に射抜いた。

「達也さん。あなた、まだわからないの?」 「何がだよ!」 「お義母さんが倒れたのは、私のせいじゃないわ。ヶから度の変形性関節症で、医師から労働を厳禁されていたのよ。診断も見たわ。つまり、お義母さんは最初から、今の盆の支度なんてできる体じゃなかったの」

「え……?」 達也のきが止まった。彼は線を彷徨わせ、座布団のにへたり込んでいる文恵を見た。

「母さん……本当なの? 、そんなに悪かったの……?」

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