"台所の生贄、義母の黒革手帳" 第5話
それは、森のと建物の登記簿謄本のコピーだった。 権利者の欄を見て、私は息を呑んだ。 森修造の名義だったはずの実のと建物が、昨のの点で、すでに義姉の『矢野美穂』へと贈与されていたのだ。
たい汗が、背をツーと流れ落ちた。
「……どういうこと?」
私はので、急速にピースを組み替え始めた。 達也は常々、私にこう言っていた。 「俺は男だからさ、いずれあの実のとを継ぐことになる。だから、実のことで親父や母さんの嫌を取るのは仕方ないだろ? 将来の資産になるんだから、おもしてくれよ」
その言葉を盾にして、達也は実のあらゆる条理を私に押し付けてきたのだ。 男の嫁だから。将来、をもらうのだから。 だが、現実はどうだ。 もも、とっくに義姉の美穂の単独名義にき換えられていた。 そして、度の関節症を患い、これ以事もままならなくなった文恵の莫な介護費用と老ホームの額費用だけが、達也――つまり、私と達也の世帯の計に押し付けられようとしていた。
では、なぜ今の盆、文恵は私に「来なくていい」と言ったのか? 本当に私の体を気遣ったわけではないことは、昨夜の嫌がらせのような文LINEで証されている。
私はスチールラックに置かれていた黒革の『事台帳』をに取った。
広告
ページをめくる。 過数分の、盆と正の記録。 親戚からのお祝いの額、典の返礼、そして『献』と『反省点』。 そこには、几帳面な文恵の文字が並んでいた。
――私が森に嫁いできたののページをいた。 そこには、信じがたい記述があった。
『 れ。 達也、しい嫁(紗都子さん)を連れて帰省。 おとなしそうな娘だが、企業勤めのプライドが見え隠れする。 台所仕事を通りやらせてみたが、包丁の際が気。 姑の私に見するような女になっては困る。 最初の数で、徹底にこのの流儀を叩き込む必あり。 まずは、親戚ので恥をかかせぬよう、徹底に働きをさせること』
『 紗都子さん、台所にち、泣きそうな顔をしていた。 それでいい。嫁とは、このの底辺にを置き、をかぶる役目なのだ。 私が修造さんの母(姑)に仕え、踏み虙られてきたように。 この苦しみを通過しなければ、森のにはなれない』
指先が凍りつき、台帳を持つが震えた。 教育? 流儀? 違う。これはただの、自分が過に受けた暴力の連鎖であり、呪いの継承だったのだ。文恵は自分がかつてわった屈辱と惨めさを正当化するために、しく入ってきた「嫁」というのを、全く同じ獄に引きずり込まずにはいられなかったのだ。
広告
そして、最のページ。 今、付のメモ。 そこには、赤インクでこうかれていた。
『 膝の痛みが限界。医師から介護申請を勧められる。 修造さんは「施設に入るならを面しろ」と言うばかりで、何つ面倒を見てくれない。 美穂に同居を頼んだが、「はもらったけど、介護は男の嫁の仕事でしょ」と断られた。 もう、私には紗都子さんしかいない。 だが、あの娘は最転職し、自分のを歩もうとしている。気だ。 度、突き放して罪悪を植え付けるべし。 「来なくていい」と慈を見せ、実際に来なかったら親戚で非難し、孤させる。 そうすれば、達也を通じてあの娘を会社から辞めさせ、私の専属の介護としてこのに縛り付けることができる。 達也には「紗都子が来ないせいで母さんが倒れた」と吹き込むこと。あの子は私のい通りにく』
喉の奥から、乾いた笑いが込みげてきた。
すべてが、計算され尽くした罠だったのだ。 「来なくていい」という甘い罠。 それにびつけば「親孝なな嫁」の烙印を押され、逃げを失ったところで「同居介護」という名の終刑を宣告される。 そして、その絵図を描いたのは文恵であり、その片棒を担いでいたのは、実の甘い汁だけを吸い逃げしようとする美穂、そして何より――自分の保のために母親の毒親ぶりに目をつぶり、妻を贄に差しした、夫の達也だった。