みかん小説
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"赤ペンの死線と消えた五年間" 第11話

レンは机のに両肘をつき、を乗りすようにしてハルカの瞳をまっすぐに見つめた。 「インチキかもしれないけどな、ハルカ。俺、今までずっと違えてたんだよ。テストの引き算もそうだった。数字が見えたら、の文脈も、提条件も、その数字が何をしてるのかも考えずに、ただ公式に当てはめて答えをして『ってるはずだ』とい込んでた」

レンの線が、裏返された答案用の角へと落ちる。表側に刻まれているはずの『よく考えましょう』という武藤先の丸っこい文字が、の裏側からも微かに透けて見えていた。

「でも、おと話しててやっとわかったんだ。俺たちは都のいい提を勝に作って、見たいものだけを見てる。おが放課、俺のくだらない勉に何も付きってくれること。毎朝、昇で俺の遅刻ギリギリの姿を見つけて呆れた顔をすること。テストで赤点を取るたびに、りながらも駅のファミレスまで引っ張っていってくれること……それを全部、『単なる幼馴染の腐れ縁』っていう都のいいラベルのに押し込めて、ノイズとして切り捨ててたのは俺の方だ」

レンは息を吸い込み、裏返された数式を差し指でトントンと叩いた。 「だから、これは勝ない込みじゃない。過のすべてのシグナルを正しく拾い集めて、バイアスを取り払った結果導きされた、論理の必然だ」

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ハルカはゆっくりと、顔を隠していた文庫本を机のに置いた。 わになった彼女の頬は、夕の朱を通り越して、の付け根まで鮮やかに潮していた。それでも彼女は、いつもの凛とした姿勢を崩すまいとするように背筋を伸ばし、鏡の位置を指先で直した。

「……気ね。いつのに、そんなの利き方を覚えたのかしら」 「教えてくれた庭教師が優秀だったからだろ」 「皮肉のセンスだけは、確かに歩したようね」

ハルカはくため息をつき、それから机のに置かれたレンのシャープペンシルにを伸ばした。 細い指先がペンの軸を握り、カチリと度だけ芯をノックする。彼女は答案用を引き寄せると、レンがいた極限の式のすぐ、余のスペースに迷いなくペン先をらせた。

さらさらと、静かな図に芯が擦れる音だけが響く。 き終えたハルカは、ペンのろでさく机を叩き、答案用をレンの側へと押し戻した。

そこには、ハルカの几帳面で美しい跡で、赤インクではなく黒い炭素の線で、たな注釈が添えられていた。

$$Q.E.D.$$

$$\text{但し、証の効期限は以も無限期継続するものとする。}$$

「……ハルカ」 「採点完よ。これでようやく、完全な正解にしてあげる」

ハルカはそう言って、初めて本物の、しだけ泣きそうに見えるほどの柔らかな笑みを浮かべた。

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その笑顔は、レンが幼い頃から見てきたどの表よりも鮮烈で、夕暮れのので息を呑むほど美しかった。

「ただし、の本史の追試で赤点を取ったら、この証は即座に無効化するわ。提条件が『を留しないこと』にき換わるからね」 「う……それは厳しいな」 「当たりよ。秀吉の没と幕府闢の因果関係すら曖昧な男に、この極限値を維持する資格なんてないんだから」

は顔を見わせ、どちらからともなくさく吹きした。夕の、互いの笑い声がなりい、張り詰めていた空気がふわりと温かいものへと解けていく。

ふと顔をげると、窓のでは夕のがゆっくりとを包み込み、茜のグラデーションの隙に、番の青いが静かに瞬き始めていた。舎の壁を打つの音も、くのをき交うのライトも、すべてが世界の正しい輪郭を取り戻したかのように調して見えた。

には、武藤先の容赦ない本史の追試が待っている。 だが、もう恐れるものは何もなかった。

言葉の定義を疑い、提条件を見つめ直し、世界を正しく捉え直したのには、どんな難問よりも豊かで、果てしなく広な未来のキャンバスが広がっていたのだから。

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