"境界の桜庭茶房 ~現代飯と国宝で、どん底から人生やり直します~" 第1話
祖父がくなってから半、京の片隅に取り残された古びた造舗『桜庭茶』は、埃と静寂の底に沈んでいた。
の祖父は、どこか浮世れしただった。駅の発から取り残されたの突き当たり、代遅れの格子戸と暗いカウンターだけのさなで、夜な夜な議な客を迎えていたらしい。遺品理もままならず、ただ賃と固定資産税の督促に追われていた桜庭よりが、覚悟を決めて厨の掃除を始めたのは、晩のが激しく窓を叩く夜のことだった。
厨の奥、勝の板戸の隙から、たいが吹き込んでいた。 鍵を閉め直そうとを伸ばした瞬、ギシと軋む音が響き、界が揺らぐ。ぬるい空気と、湿ったとの匂いが先をかすめた。
「……え?」
板戸の向こうにあったはずの狭い裏は消え失せ、鬱蒼とした林が夜のに広がっていた。元は濡れた畳に変わり、くでかすかな獣の吠えが霊している。 呆然とち尽くすよりのに、びしょ濡れの擦れの音と荒い息遣いがび込んできた。
「た、助けてくだされ……! どなたか、おられませぬか!」
の向こうから転がり込んできたのは、古い代劇でしか見たことのないような絹のをまとった若い女と、その侍女らしき娘だった。髪は乱れ、りしきるに震えがっている。
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よりの呆気にとられた顔を見るなり、令嬢らしき娘は縋りつくように言った。
「寺へ父の平癒を祈願に参った帰り、の豪に遭い、従者ともはぐれてしまいまして……どうか、宿りをお許し願えませんか」
撮のロケ隊がに迷ったのだろうか。それとも何かのの悪戯か。混乱しながらも、唇を青くして震えるの姿を見過ごすことはできなかった。よりはを内に招き入れ、清潔なタオルを渡した。
「あの、べるものなんて、インスタントの麺か……あとは、蔵庫にある買い置きのタピオカミルクティーくらいしかありませんけど」 「いただけるなら、何でも……!」
湯を沸かし、買い置きの即席麺に卵を落として差しす。さらに、えた体をしでも温めようと、甘いミルクティーをグラスに注いだ。 恐る恐る麺をにした令嬢は、目を見張るなりで箸をかし始めた。
「な、何という旨……。敷のお抱え料理が作るどの麺よりも美でございます。それに、この黒い粒の入った甘いお茶は体……?」 「ただのタピオカですけど……」
べ終えたは々とをげ、懐からごとりとみのある包みを取りした。
「持ちわせがこれしかなく、申し訳ありませぬ。どうかお納めください」
差しされたのは、ずっしりとたい本物のの塊と、古を帯びた数枚の銭だった。
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よりが制止するもなく、はく礼をして勝ののへと消えていった。 扉を閉めると、の景はいつもの湿ったアスファルトの裏に戻っていた。
翌朝。テーブルのに残された塊と銭を見つめ、よりは頬をつねった。ではない。 半信半疑のまま、祖父が付きいのあった骨董品へ銭を持ち込んでみる。主の老鏡の奥が鋭くった。
「……嬢ちゃん、これ、どこでに入れた? 保状態が異常にいい。王朝の正真正銘の本物だ。オークションにせば枚、万はいくだろうが、今すぐ現がるなら、枚万千円で買い取ろう。全部で枚……万千円だ」
即座に渡された現のみに、よりの指先がかすかに震えた。 祖父が遺したこのは、ただのボロではない。異界――あるいは遥かな過の代へと繋がる、信じがたい『境界』だったのだ。
代、親友だと信じていた同級・綾瀬美央の悪質な罠によって棒の濡れを着せられ、学もも奪われて以来、よりのは常にの貧困のにあった。だが、ここなら、自分のでやり直せるかもしれない。
そのの夕方、よりがをえていると、再び勝の鈴が頼りなげに鳴った。 恐る恐る顔をしたのは、にまみれた粗末な麻布をに纏う老だった。
「おの方……まだ、何か腹に入るものはあるかのう?」
痩せこけた体、ひび割れた。