"婚約破棄を告げた瞬間、義父母から謎の80万円を請求された" 第19話
父がハッとしたように顔をげる。
「父さんが汗流して、毎油まみれになって働いてくれたから、私は何自由なく育ったの。美しいご飯をべて、学までかせてもらって、自分の力できていくためのさを教えてもらったの」
喉の奥がしくなった。 でも、涙はなかった。 あふれてきたのは、誇らしさだった。
「あのに嫁がなくて、本当によかった。自分の親を恥ずかしいとうようなにならなくて、本当によかったとってる。だから父さん、度と自分を責めないで」
父はしばらくの、黙っていた。 そして、照れくさそうに線を逸らすと、きくを鳴らした。
「……そうか。おがそう言うなら、そうなんだろうな」
父はちがり、蔵庫へ向かった。 ドアをけ、をごそごそと探っている。
「ほら、これうか」
テーブルのに置かれたのは、プラスチックの容器に入った、連の黄いカスタードプリンだった。 スーパーで百円ちょっとで売られている、ごく普通の物のプリン。
「……これ、私がさい頃好きだったやつ」
「まだ売ってたからな。昨、帰りにスーパーで買っておいたんだ」
母がんだ。 歳の私が、病院の待で声をげて泣いていた。 父はどうやって子どもを慰めればいいのか分からず、売にってこのプリンを買ってきたのだった。
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『甘いもんえば、しは元気がるからな』
器用で、気の利いた言葉なんて何ひとつ言えなくて。 ただ、プラスチックのスプーンを握らせてくれた父の姿が、鮮やかによみがえった。
プリンの蓋をペリペリと剥がす。 スプーンですくってに運ぶと、懐かしい、甘ったるいカラメルのが広がった。
「美しい」
私が笑うと、父も嬉しそうに目尻の皺をくして笑った。
夕方、父のアパートをた。
「駅まで送るよ」
父が玄関で、ハンガーに掛かっていた着にを伸ばした。 濃い紺の、しあせた作業用ジャンパー。 胸には、黄い糸で『川鉄所』と刺繍が入っている。
父はハッとを止め、し気まずそうに私を見た。
「……あ、着替えた方がいいか? 油臭いかもしれん」
私は笑って、父の腕を引いた。
「何言ってるの。そのままでいいよ。父さん、それが番似ってる」
ふたりで並んで、夕暮れのを歩いた。
川の古い宅の向こうに、赤の夕焼けが広がっている。 くで、京浜線ののるガタゴトという音が響いていた。
並んで歩く父の背は、昔よりもしだけさくなったように見えたけれど、その取りはしっかりとしていた。 擦れ違う所のに、父は「こんばんは」と子にを当てて挨拶をする。 誰も父を蔑んだりしない。誰も父の作業着を「恥」
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だなんて言わない。
ここが、私のきてきた所だ。 誠実に働き、嘘をつかず、に謝してきていく。 当たりの、でも何よりも尊い教えを、私はこのから受け取ってきたのだ。
かつて私は、結婚とは、誰かがしく私の族になってくれることだとっていた。 母をくした私のの穴を、誰かが埋めてくれることだと信じていた。
けれど、違った。
本当の族は、自分がどこから来たのかを恥じるよう求めたりしない。 切なのルーツを踏みにじってまでに入れる幸せなんて、この世のどこにもしないのだ。
駅の改札で、父がち止まった。
「じゃあな、結菜。体に気をつけて、しっかり飯うんだぞ」
「うん。父さんもね。また来週、来るから」
自改札にICカードをタッチし、ゲートをくぐる。 振り返ると、父は改札ので、紺の作業着のポケットに両を突っ込み、私が歩きすのをじっと見守っていた。
私はきくを振った。 父も、照れくさそうに片をさく振り返してくれた。
がホームに滑り込んでくる。
たいのを歩きす私の元には、もう何の迷いも、恐れもなかった。 私のは、私のものだ。 誰にも奪わせないし、誰の顔にもけ渡さない。
胸を張って、私はしいののへと歩きした。